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【ぼく勉】文乃 「この場所で、また君と」

822: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/25(木) 00:11:34 ID:Tg00Lxe6

………………朝 一ノ瀬学園

文乃 「………………」

ハァー

文乃 (あ、息、少し白いや)

文乃 (朝方は空気が冷えるようになってきたなぁ)

文乃 (今年は秋が短い気がする。ついこの前まで暑かったはずなのにな)

文乃 (……もう、冬なんだね)

文乃 「………………」

文乃 (もう受験、なんだよね……)

文乃 (春からこっち、長かったような、短かったような……)

文乃 (本当に色んなことがあったな)

クスッ

文乃 (そのほぼすべてに、“彼” が関わっているんだよね)

文乃 (今だって、来るか来ないかもわからない彼を待っているわけだし)


823: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/25(木) 00:14:09 ID:Tg00Lxe6

文乃 (……いつ頃からだっけ。こうやって、ここで彼を待ったり、待たせたりするようになったのは)

文乃 (最初はりっちゃんとうるかちゃんの成績ががた落ちしたときだったよね)

文乃 (鈍い彼は、どうしてふたりの成績が落ちたのか分からなくて、苦労してたなぁ)

文乃 (彼の相談や愚痴、他愛もない話を聞いているうちに、いつの間にかここに来るのが習慣になって……)

文乃 (最初の頃はメールで約束したりもしていたけれど……)

文乃 (いつからか、こうやってなんとなくここに来るようになって……)

文乃 (……わたし、本当に、最近は毎日ここに来てるな)

文乃 (今日は彼は来ないみたいだ。待ちぼうけだね)

クスッ

文乃 (……まぁ、わたしが勝手に待っているだけなんだけどね)

文乃 (時間ももったいないし、数学の公式でも覚えようかな)

文乃 (成幸くんお手製のフラッシュカード……。本当だったら自分で作るべきなんだろうけど)

文乃 (“教材は俺が作るから、そんな暇あったら勉強してろ” だもんなぁ……)

文乃 (わたしはいつも、彼に甘えてばかりだ。でも、だからこそ……)

文乃 (……その彼の頑張りに報いるためにも) グッ 「……がんばるぞ、わたし!」


824: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/25(木) 00:15:40 ID:Tg00Lxe6

………………???

文乃 「ん……?」

パチッ

文乃 (あれ、ひょっとして、わたし寝てた……?)

文乃 (こんなに寒いところで寝てたら、また風邪引いちゃうよ……)

文乃 (……あれ? でも、なんか……)

文乃 (寒くない?)

?? 「文乃? 起きたの?」

クスクス

文乃 「はぇ……?」 (あれ、わたし、目線が低い……?)

文乃 (ここは、どこ? 目の前で笑っている、この人は……)

文乃 「お母さん……?」


825: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/25(木) 00:16:13 ID:Tg00Lxe6

………………???

文乃 「あ、あれ……?」

カーン……カーン……カーン……

文乃 (今度は何? 広場 ?工場……? いや、ここは……)

文乃 (ロケット!? えっ!? じゃあ、発射場!?)

文乃 (っていうか、わたし、なんで白衣なんて着てるの……?)

?? 「博士、イオンエンジンのマイナーチェンジ案、完ぺきですね」

文乃 「へ……?」

?? 「博士の提案された設計をいま出力しています。完成し次第、イオン反応テストを行いますが、」

?? 「博士の理論通りの推力が期待できます。従来型から36%もの推力アップです」

?? 「これなら、惑星間航行の定期便化も夢じゃありませんよ」

文乃 (博士……? わたしが……?)


826: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/25(木) 00:16:44 ID:Tg00Lxe6

………………???

パシャッ……パシャッ

文乃 「あ、あれ……?」

文乃 (今度は、何……? 大量のカメラ。フラッシュ……)

文乃 (記者会見場のような……)

?? 「古橋博士! こちらへ目線お願いします!!」

?? 「こっちにもお願いします……」

?? 「博士が理論を提唱したイオンエンジンについて、簡単にご説明願います!!」

?? 「惑星間航行の大幅なコストダウンに貢献されたことについて、コメントを!!」

?? 「火星の定期便第一号に博士が搭乗されるとのことですが、それに向けて一言お願いします!」

文乃 「へ……? へ? へ?」

?? 「ちょっと待ちなさい! まだ写真撮影ですよ! 質問は控えてください!」

?? 「質疑応答の時間は後で取りますから! マナーを守れないようならご退出いただきますよ!」


827: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/25(木) 00:17:28 ID:Tg00Lxe6

………………???

『さて、火星間の定期便第一号が出発します、ギアナ宇宙センターからリポートしております』

『皆様、ご覧ください。あの雄々しいながらもスマートなロケットを』

『あのロケットには、人類史に残る発明――イオンエンジンの理論提唱者である古橋博士が搭乗しています』

『若い女性でありながらロケットエンジンの第一人者として頭角を現し、』

『今や世界最高レベルのエンジニアでもある古橋博士。彼女は日本の宝であります』

『イオンエンジンの、化学エンジンとは比べものにならない推力、そしてとてつもないコストダウンにより、』

『今や宇宙へ旅立つことは人類にとってそう難しくないことになりつつあります』

『日本……いえ、地球が誇る稀代のエンジニア、古橋文乃博士の旅立ちを、世界中の人が見守っています!』

『古橋博士! どうか良い宇宙の旅を!』


828: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/25(木) 00:18:05 ID:Tg00Lxe6

………………???

文乃 「……ん、あれ、今度は……」

成幸 「ああ、起きたか。文乃」

文乃 「へ……?」

文乃 「成幸くん……? なんか、背伸びた? っていうか、なんか大人っぽいような……」

成幸 「はぁ? ここ最近はお互いずっと一緒にいるだろ? いきなり何言ってんだ?」

成幸 「寝ぼけてるのか? この寝ぼすけ眠り姫め」

ギュッ

文乃 「へ……? へぇ!?」

文乃 「い、いきなり何をするのかな、成幸くん!? せ、セクハラだよ!?」

成幸 「お、おいおい。さすがにそれは傷つくぞ? 抱きしめるくらいは許してくれよ」

成幸 「約束通り、結婚するまではキスもしてないんだからさ」

文乃 「はぇ……? け、結婚、って……」

キラッ

文乃 (わたしの薬指、これ……婚約指輪……?)


829: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/25(木) 00:18:48 ID:Tg00Lxe6

文乃 「わたし、結婚するの!?」

成幸 「お前、大丈夫か? 変な夢でも見てたのか……?」

成幸 「それとも、やっぱり……俺と結婚するの、嫌なのか?」

ズーン

成幸 「それなら、まぁ……仕方ないと思って、あきらめるけどさ……」

文乃 「しかもきみと!?」

成幸 「そこも把握してなかったのか!?」

文乃 「わ、わたしと、きみが、結婚……?」

カァアアア……

文乃 「……わたしなんかと結婚して、いいの?」

成幸 「はぁ? 何を言ってるんだ、一体」

成幸 「お前と結婚したいんだよ、俺は。お前以外の誰と結婚しろって言うんだよ」

成幸 「イオンエンジンの理論提唱者にして、世界最高のエンジニア、古橋博士」

成幸 「……お前と結婚したい男なんて1億人は下らんぞ」

成幸 「まぁ、俺はそういう肩書きなんかどうでもよくて、ただ古橋文乃が好きなだけだけどな」


830: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/25(木) 00:19:44 ID:Tg00Lxe6

文乃 「はうっ……////」

文乃 (で、でも、だって……きみには、りっちゃんとうるかちゃんが……)

成幸 「あ、そうだ。理珠とうるか、あすみ先輩も真冬先生も式に来られるってさ」

成幸 「いい男捕まえるって息巻いてたぜ。エンジニア仲間でも紹介してやれよ」

文乃 (……そっか)

文乃 (わたし、きみと幸せになっても、いいんだね……)

成幸 「……? 文乃?」

文乃 「……よろしくね。成幸くん」

文乃 「わたしのこと、幸せにしてね」

成幸 「………………」

ニコッ

成幸 「当たり前だろ。任せとけ」


831: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/25(木) 00:20:19 ID:Tg00Lxe6

………………???

文乃 (ん……? ここは……教会……?)

文乃 (純白の衣装……こんなの、考えなくたって、分かる……)

文乃 (ウエディングドレス、着てるんだ、わたし)

文乃 (結婚、するんだね。わたし、成幸くんと……)

成幸 「………………」 ドキドキドキ……

文乃 (ふふっ、緊張した顔しちゃって……)

うるか 「文乃っちー、きれいだよー!」

理珠 「おめでとうございます、文乃。本当にきれいです」

あすみ 「まさかお前と後輩がなぁ。人生どうなるかわからないもんだな。ま、おめでとさん!」

真冬 「おめでとう、古橋さん。……いえ、もう唯我さん、ね」

文乃 (えへへ……)

文乃 「みんな、ありがとー!」


832: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/25(木) 00:21:35 ID:Tg00Lxe6

………………???

文乃 (ん……?)

文乃 (あれ? わたし、結婚式で、みんなに祝福されて……)

文乃 (ここは……?)

?? 「あなたに理系受験は無理よ」

?? 「よしんば受かったとして、大学の理系授業について行けると思うの?」

文乃 「!? い、いきなりなんですか? そんなの、やってみないと、わからないじゃないですか!」

?? 「文乃。ひどいです」

?? 「文乃は、私が成幸さんのことを好きと知っていて、その上で……」

?? 「私から成幸さんを奪い取ったんですね」

文乃 「ち、違うよ!? わたしは、ただ……」

?? 「違わないよ! 文乃っち、ひどいよ!」

?? 「あたしが成幸のこと好きって知ってたんでしょ!? 心の中で笑ってたんでしょ!?」

?? 「最後に勝つのは自分だって、笑ってたんでしょ!!」

文乃 「違うよ! わたしはそんなこと考えてないよ!」


833: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/25(木) 00:23:01 ID:Tg00Lxe6

?? 「……文乃」

文乃 「へ……?」

?? 「………………」

文乃 「おとう、さん……?」

?? 「………………」

文乃 (……いやだ。怖い。なんで。どうして)

文乃 (どうして、こんな……)

……ギュッ

文乃 「えっ……?」 (ひんやりして、心地良い、この手は……)

文乃 「成幸、くん……?」

成幸 「……行くぞ、古橋」

ニコッ

成幸 「一緒に行こう。一緒なら、大丈夫だ」

文乃 「成幸くん……」 (ああ、そうか、きみは……きみだけは、わたしを……)

文乃 「……うん!!」


834: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/25(木) 00:24:16 ID:Tg00Lxe6

………………

文乃 「……ん」 パチッ

文乃 「あれ……? わたし……」

  「起きたか?」

文乃 「へ……?」

文乃 「成幸くん……?」

成幸 「おう。なんだ? 寝ぼけてるのか?」

文乃 「……んー、そう、かも? ちょっと、怖い夢を見て……。えっと、結婚式は?」

成幸 「はぁ? 結婚式? 誰の?」

文乃 「誰って……きみとわたしの結婚式に決まってるでしょ」

成幸 「………………」

成幸 「は、はぁ……?」 カァアアアア……

文乃 「へっ……? あっ……」 (成幸くん、制服……?)

ハッ

文乃 (夢!? そうだ、わたし、夢を見てたんだ! 全部夢だったんだ!)


835: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/25(木) 00:25:02 ID:Tg00Lxe6

文乃 (わ、わたし……成幸くんにもたれかかって……寝て……)

文乃 (エンジニアになって、成幸くんと……結婚する、夢……)

文乃 「ご、ごめん。変な夢見ちゃったみたい。忘れてっ」

成幸 「あ、ああ。まったく、朝から寝ぼすけだな……」

文乃 「でも、成幸くん、どうしてここに……?」

成幸 「ああ。古橋がいるかなと思って来たら、フラッシュカード持ったまま居眠りしてるお前がいたから……」

成幸 「悪い。気持ち良さそうに寝てたからさ。起こすのも気が引けて隣で勉強してたんだが、」

成幸 「途中で俺にもたれかかってきて……。すまん」

文乃 「そ、そっか……。こちらこそごめんね、成幸くん」

文乃 「ん……?」

パサッ……

文乃 「……あれ、これ……成幸くんの、ブレザー……?」


836: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/25(木) 00:25:47 ID:Tg00Lxe6

文乃 「寝てるわたしに、かけてくれたの……?」

成幸 「……さすがにこんな寒い中、制服だけで寝てたら風邪引くだろ」

成幸 「へくしっ……」

文乃 「成幸くんが風邪引いちゃうよ! ごめんね。返すよ」

成幸 「俺は大丈夫だよ。でも、どこでも寝ちまうお前には困ったもんだな」

成幸 「こんなところで寝るくらいなら、教室で寝ろよ」

文乃 「それは、まぁ、その通りなんだけど……」

文乃 (……きみを待っていたら、いつの間にか居眠りしちゃったなんて、言えないし)

文乃 (きみの夢を見てたなんて、もっと言えないし……)

カァアアアア……

文乃 (きみと結婚する夢を見ていたなんて、絶対言えないよね)


837: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/25(木) 00:26:19 ID:Tg00Lxe6

成幸 「ん……もうこんな時間か」

成幸 「そろそろ教室行くか」

文乃 「……そうだね。行こうか」

文乃 (……手の隙間から、砂がこぼれ落ちていくように、夢の中での出来事が、頭の中から少しずつ消えていく……)

文乃 「………………」

文乃 「……ねぇ、成幸くん。数学の公式、結構覚えたから、また問題出してね」

成幸 「おう。とりあえず今日の放課後だな。あとは……」

成幸 「明日の朝、ここでもやるか」

文乃 「……うん!」


838: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/25(木) 00:26:56 ID:Tg00Lxe6

文乃 (夢は夢で、わたしはきみとどうなったわけでもない)

文乃 (わたしが、何を思って、あんな夢を見たのかなんて、きっとわからない)

文乃 (ただ、ひとつ分かること。確実なこと……)

文乃 「……また明日だね、成幸くん」

成幸 「? 今日の放課後も一緒に勉強するだろ?」

文乃 「ふふ、そうだね……」

文乃 (鈍い君はきっと気づかない。気づかなくていい。気づかれちゃ、きっとダメ)

文乃 (だから、そっと、心の中だけで、なぞる)

文乃 「………………」

ニコッ

文乃 (この場所で、また君と)



おわり


839: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/25(木) 00:27:33 ID:Tg00Lxe6

………………幕間 「出歯亀の会」

鹿島 「!? 居眠りした古橋姫の隣に唯我成幸さんが座りましたね~!」

蝶野 「!? おお!? 唯我さん、古橋姫に自分のブレザーを羽織らせたっスよ!」

猪森 「!? なんだと!? 古橋姫が唯我くんにもたれかかったぞ!?」

鹿島 「これは……」

蝶野 「なんとも……」

猪森 「とてつもなく……」

鹿島&蝶野&猪森 「「「尊い……!!」」」



おわり





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