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【ぼく勉】 紗和子 「あのときの私のように」

171: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:36:31 ID:xdZFqhxY

………………公園

紗和子 「………………」

ゴクッ……

紗和子 「……ふぅ」

紗和子 (放課後に公園で飲む缶コーヒーは格別ね)

ワーワーワー……

紗和子 「……ふふっ。この公園は小さなサッカーコートがあるのね。フットサルって言うのかしら?」

紗和子 (遊び回る子どもたちを眺めながらコーヒーをすするというのもまた趣深いわね)

紗和子 (……サッカーはあまり得意ではなかったけれど、やるのは楽しかった憶えがあるわ)

紗和子 (小学生くらいのときは、私もあんな風に遊び回っていたかしら)

紗和子 (男の子と女の子がいりまじって遊んでるのね。楽しそうでうらやましいわ)

紗和子 (……なんて、高校生の私が考えることじゃないかしら)


172: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:37:02 ID:xdZFqhxY

紗和子 (……いつからかしら。あんな風に遊べる友達が、いなくなってしまったのは)


―――― 『またガリ勉関城が平均点上げてるよ』

―――― 『平均点以下の奴補習だってさ』

―――― 『うえーっ』

―――― 『もっと空気読んでくれよー』


紗和子 「っ……」

紗和子 (……いけない。いやなことを思い出してしまったわ)

紗和子 「………………」

紗和子 (小学校の頃は、何も考えなくてよかったのに)

紗和子 (遊ぶのも勉強するのも、どちらも楽しくて……)

紗和子 (でも、中学校にあがって、勉強がすごく楽しくて……でも……)


173: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:40:57 ID:xdZFqhxY

紗和子 「………………」

紗和子 (やめましょう。考えても詮無いことだわ)

紗和子 (それに、今は緒方理珠たちと一緒で、とても楽しいし……)

コロコロコロ……

紗和子 「あら?」

ヒョイッ

紗和子 (サッカーボール? あの子たちがこっちに蹴飛ばしてしまったのね)

クスッ

紗和子 (仕方ない。投げ返してあげるとしましょうか……――)


「――おまえ、いい加減にしろよ!」


紗和子 「えっ……?」

紗和子 (さっきまでサッカーをしていた子たちが、言い争ってる……?)


174: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:41:27 ID:xdZFqhxY

女の子 「な、なんだよ……! なんでそんなに怒ってるんだよ!」

男子1 「さっきだって言っただろ! それじゃこっちが楽しくないって!」

男子2 「そうだよ。またひとりでドリブルして、ゴールして……」

男子3 「おまえと同じチームになるとボールが回ってこなくてつまらないし」

男子4 「おまえと敵になると、ドリブルだけで抜かれるからどうしようもないんだよ」

女の子 「そ、そんなの……」 ギリッ 「そんなの、ヘタクソなおまえらが悪いだけだろ!」

女子1 「ひっ……」 グスッ 「わ、わたしだって、好きでヘタなわけじゃない、のに……」

女の子 「あっ……ち、違う。きみに言ったわけじゃなくて……」

男子1 「ふん。じゃあ俺たちに言ったのかよ」

女の子 「っ……」

男子2 「……なぁ、もう帰ろうぜ。これ以上言っても、こいつにはわかんないよ」

男子3 「だな。ほら、泣き止めって……」

女子1 「えぐっ……ひぐっ……」

男子1 「……じゃーな」

女の子 「………………」


175: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:42:15 ID:xdZFqhxY

紗和子 「………………」

ドキドキドキドキ……

紗和子 (と、とんでもないものを見てしまった気がするわ……)

紗和子 (っていうか、このサッカーボール、どうしたらいいかしら?)

紗和子 (子どもたちは帰ってしまうようだし、拾ってしまった手前、また置くのもはばかられるし……)

女の子 「………………」

チラッ

女の子 「あっ……」

紗和子 「……!?」 (め、目が合った……)

女の子 「………………」 トトトトト……

女の子 「……すみません。拾ってくれたんですね。ありがとうございます」

紗和子 「あ……ど、どういたしまして」


176: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:42:51 ID:xdZFqhxY

………………しばらくして

女の子 「………………」

ポーン……ポーン……ポーン……

紗和子 「………………」 (あれからしばらく経つけど……)

紗和子 (あの子、他の子たちがいなくなってからずっと、ひとりで壁に向かってボールを蹴ってるわ)

紗和子 (受験生としては、そろそろ帰って勉強をしたいところだけれど……)

女の子 「………………」

紗和子 (……あの子の悲しそうな顔が気になって、帰る気にならないのよね)

紗和子 (まぁ、勉強道具がないわけではないし……)

紗和子 (近くの自販機で缶コーヒーならいくらでも買えるわけだし)

紗和子 (しばらくここで勉強していこうかしら)


177: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:43:29 ID:xdZFqhxY

………………

女の子 「………………」

ポーン……ポーン……ポーン……

女の子 (……なんだよ、あいつら)

女の子 (こっちは全力でサッカーやってるだけなのに)

女の子 (何が、おまえとやるとつまらない、だよ!!)

女の子 (男のくせに、わたしよりヘタクソなおまえらが悪いんだろうが!!)

スカッ…………

女の子 (あっ……!?)

女の子 (しまった、目測誤った……バランスが……)

ドテッ……!!!

女の子 「……いてててて……」

女の子 (しまった。少し手を擦りむいちゃったな……)

女の子 (少し血が出てるけど、まぁこれくらいなら……――)

「――ちょっと! 大丈夫!?」


178: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:44:04 ID:xdZFqhxY

女の子 「えっ……?」

女の子 「さっき、ボールを拾ってくれたお姉さん……?」

紗和子 「大変! 血が出てるじゃない! ほら、水道で洗うわよ」

ギュッ

女の子 「あっ……」 アセアセ 「こ、これくらい平気ですよ……」

紗和子 「ダメよ。ばい菌が入ったら大変だわ。破傷風って怖いのよ?」

紗和子 「きちんと洗って消毒をしないといけないわ!」

女の子 「わ、わかりました……」

女の子 (制服の上に白衣を着ていて、変なお姉さんだけど……)

女の子 (ボールも拾ってくれたし、良い人なのかな……)


179: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:44:36 ID:xdZFqhxY

………………

紗和子 「……うん。傷口はしっかり洗って、エタノールで消毒して、絆創膏もしっかり貼れたわね」

紗和子 「ふふ。我ながらかんぺきな処置だわ」

女の子 「……どうして消毒液や絆創膏を持ち歩いているんですか?」

紗和子 「そんなの決まってるわ! 私が化学部部長だからよ!」

バーン!!!

女の子 (よ、よく分からない人だ……)

紗和子 「………………」

紗和子 (……さっきの口論のこととか、聞きたいけれど、)

紗和子 (きっと私が関わるべきことじゃないわね。子どもだもの。きっと翌日には仲直りしてるわね)

紗和子 (出過ぎたことをするものではないわね。そろそろ帰りましょうか)

紗和子 「……では、私は帰るわ。あなたももう暗くなるから、早く帰りなさい」

女の子 「あっ……は、はい。もう帰ります」 ペコリ 「お姉さん、本当にありがとうございました」

紗和子 「いえいえ。気にしなくていいわ。じゃあね」


180: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:45:36 ID:xdZFqhxY

………………夜 紗和子の部屋

紗和子 「………………」

紗和子 (あの女の子、大丈夫かしら?)

紗和子 (私が遠目で見ていた限り、あの子が数人のお友達に一方的に責められているように見えたけど……)

紗和子 (その後、あの子以外の子たちは、公園からすぐにいなくなってしまったし)

紗和子 (まるで、あの子ひとりを置いてけぼりにするように……)

ハァ

紗和子 (……ダメね。あの女の子のことが気になって、まったく勉強に集中できないわ)


181: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:46:18 ID:xdZFqhxY

紗和子 (勝手な話だわ。私、きっと……)


―――― 『またガリ勉関城が平気点上げてるよ』

―――― 『もっと空気読んでくれよー』


紗和子 (あの子と昔の自分を、重ねているんだわ)

紗和子 (余計なお世話。ただの杞憂。そんなの分かってるわ)

紗和子 (でも、どうしても、あの子がひとりで寂しそうにサッカーボールを蹴る姿が……目に焼き付いて離れない)

紗和子 (あの子が辛い思いをしているんじゃないかと思うと、心配でたまらない……)

紗和子 (……あのときの私のように)


182: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:46:48 ID:xdZFqhxY

………………翌日 一ノ瀬学園

理珠 「関城さん」

紗和子 「あら、緒方理珠。何か用かしら?」

理珠 「用と言うほどのことではないのですが……」

理珠 「今日の放課後、息抜きがてら文乃たちと41アイスにでも行こうかと話しています」

理珠 「関城さんも一緒にどうですか?」

紗和子 「えっ……」

紗和子 「わっ、私も誘ってくれるの……?」

理珠 「……もちろんです」

プイッ

理珠 「関城さんも、私の友達……ですから」

紗和子 「緒方理珠……」 ジーン

紗和子 「嬉しいわ! もちろんご一緒させてもら――」


―――― 『お姉さん、本当にありがとうございました』


183: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:47:34 ID:xdZFqhxY

紗和子 「………………」

紗和子 (……どうして、あの子の寂しそうな顔がちらつくのかしら)

理珠 「……? 関城さん?」

紗和子 「……ありがとう、緒方理珠。残念だけど、今日は予定があるの」

紗和子 「だから、私抜きで行ってらっしゃい」

理珠 「そうですか……」 シュン 「残念です。また今度、一緒に行きましょうね」

紗和子 「ええ。ありがとう。その言葉だけでおなかいっぱいな気分だわ」

紗和子 (……きっと、大したことなんてない)

紗和子 (これはただの杞憂で、余計なお世話で、ただの押しつけのお節介)

紗和子 (でも……)


―――― 『こ、これくらい平気ですよ……』


紗和子 (……仕方ないじゃない)

紗和子 (あの子の寂しそうな顔が、どうしても気になるのだもの)


184: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:48:32 ID:xdZFqhxY

………………放課後 公園

紗和子 「……結局、また来てしまったわ」

紗和子 (せっかくの緒方理珠のお誘いまで蹴って、一体私は何をしているのかしらね)

紗和子 (今日はサッカーをする子どもたちの喧噪は、ない……)

紗和子 (その代わり……)

女の子 「………………」

ポーン……ポーン……ポーン……

紗和子 (ひとりで、やはり寂しそうにボールを蹴るあの子の姿だけが、ある)

女の子 「……? あっ……」

紗和子 「……あっ」

紗和子 (……しまった。気づかれないようにしているつもりだったのに、目が合ってしまったわ)

女の子 「お姉さん、昨日はどうもありがとうございました」

紗和子 「どういたしまして。ケガはもう痛くない?」

女の子 「はい! もうかさぶたになっちゃいました!」

紗和子 「そう。良かったわ」


185: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:49:16 ID:xdZFqhxY

女の子 「……あっ、あの」

紗和子 「うん?」

女の子 「昨日のお礼がしたいです。何かさせてもらえませんか?」

紗和子 「お礼だなんて、そんな、気にしなくていいわよ」

紗和子 「傷を洗って消毒して絆創膏を貼っただけじゃない」

女の子 「でも、何もしないんじゃわたしの気が済まないです」

女の子 「お願いします! 何かさせてもらえませんか?」

紗和子 (うぅ……まっすぐな目をされると弱いわね)

紗和子 (小学生の女の子にしてもらうことなんて……)

紗和子 (……いいえ。プラスに考えるべきよ、関城紗和子。話をするチャンスだと)

紗和子 「……そうね。じゃあ……」

紗和子 「お姉さんね、受験生なの。だから、勉強ばっかりで嫌になってきちゃって……」

ニコッ

紗和子 「少し、話し相手になってもらってもいい?」

女の子 「話し相手……?」


186: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:49:50 ID:xdZFqhxY

………………公園 東屋

紗和子 「はい、ココアで良かったかしら?」

女の子 「あ、ありがとうございます。すみません。わたしがお礼をするはずなのに……」

紗和子 「ふふ。律儀な子なのね、あなた」

女の子 (改めて見ると……。白衣は変だけど、このお姉さん、すごくきれいだなぁ……)

紗和子 「? 私の顔に何かついてるかしら?」

女の子 「えっ……!?」 アセアセ 「な、なんでもないです。すみません……」

紗和子 「そう? ならいいけど……」

紗和子 「……さて、じゃあ、お話をする前に、ひとつあなたに謝らなければならないことがあるわ」

女の子 「……?」

紗和子 (さすがに少し恥ずかしいし、怖い気もするけれど……)

紗和子 「……ごめんなさい。昨日のお友達との喧嘩、実は少し、内容を聞いてしまったの」

女の子 「えっ……」

紗和子 「ごめんなさい。悪気はなかったのよ」

女の子 「………………」 プイッ 「……べつに、いいですけど」


187: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:50:33 ID:xdZFqhxY

紗和子 「ありがとう。それでね、その話を、あなたに聞きたいの」

女の子 「……お姉さんにお話するようなことはないですよ」

紗和子 「あなた、サッカーがとても上手なのね。でも、お友達はそこまでじゃない……」

紗和子 「だから、妬まれて、喧嘩になったのね?」

女の子 「………………」

紗和子 「……ごめんなさい。こんなこと、私が言うのは筋違いだと分かっているけれど、言わせてね」


紗和子 「あなたは何も悪くないわ」


女の子 「え……?」

紗和子 「それだけは言っておきたかったの」

紗和子 「あなたは何も悪くないわ。だから、そんな悲しい顔をしないで」

紗和子 「お願いだから、そんなつらそうな顔をしないでちょうだい」


188: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:51:12 ID:xdZFqhxY

………………公園近く 道路

成幸 (ふー、今日はあいつらの 『教育係』 をしなくていい日だから気が楽だな)

成幸 (にしてもあいつら、41アイスに行くとか言ってたけど、お気楽だな)

成幸 (受験までそう日にちはないってことをわかってんのか? 心配だ……)

成幸 (……いかんいかん。あいつらのお守りをしなくていい日くらい、あいつらのことなんか忘れよう)

成幸 (さっさと家に帰って、あいつら用の教材を完成させないと……)

ガクッ

成幸 (……結局、あいつらの勉強で忙殺されるのな、俺)

成幸 (ま、いいけどさ……ん?)

成幸 (……あの公園のベンチに座ってるの、関城? 隣は……し、小学生くらいの女の子か……?)

成幸 (……あの関城が、幼い少女と一緒にいる……?)

成幸 「………………」

成幸 (……犯罪臭しかしないな!?)


189: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:51:51 ID:xdZFqhxY

………………

女の子 「つ、つらそうな顔なんてしてないです……」

紗和子 「してるわ。思い悩んでるような顔。ボールを蹴ってるときも、ずっと……」

紗和子 「だから言ってあげたかったの。あなたは悪くないって」

紗和子 「だって、あなたはサッカーが好きで、たくさん練習したんでしょう?」

紗和子 「今日みたいに、ひとりのときだって、壁に向かってボールを蹴ってきたのでしょう?」

紗和子 「だったら上手で当然だわ。それをやっかんで、ひどいことを言って……」

紗和子 「そんなの、絶対に許されることではないわ! あなたは何も悪くないのよ!」

女の子 「………………」

女の子 「……たしかに、わたし、サッカーが好きです」

女の子 「ひとりでもたくさん練習しました。だから、クラスで一番サッカーが上手になったんだと思います……」


190: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:52:33 ID:xdZFqhxY

女の子 「……でも、わたしと同じチームでも敵でもつまらないって……」 グスッ

紗和子 「……つらかったわね。いいのよ、そんな言葉、気にしなくて」

紗和子 「あなたは悪くない。あなたは……――」


女の子 「――……違います。そうじゃ、ないんです」


紗和子 「えっ……?」

女の子 「たしかに、みんなに言われたことは、嫌でした……」

女の子 「でも、みんながそう言うのも、わかるんです……」

女の子 「だってわたし、みんなよりサッカーが上手だってわかってるのに……」

女の子 「ひとりでボールを無駄にキープしたり、わざと相手をおちょくるようなトリックをしたり……」

女の子 「……みんなが嫌がるってわかってて、そういうこと、しちゃったから……」

紗和子 「………………」

女の子 「……お姉さん、ありがとうございます。わたしのことを、“悪くない” って言ってくれて」

ニコッ

女の子 「おかげで、認められる気がします。わたし、悪かったんです。だから、みんなにちゃんと謝ります」


191: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:53:41 ID:xdZFqhxY

紗和子 「……そう?」

紗和子 「お役に、立てたなら、嬉しいわ……」

女の子 「はい!」

女の子 「……ココア、ごちそうさまでした! お話も聞いてくれてありがとうございました!」

女の子 「わたし、みんなに謝りに行って来ます!」

紗和子 「……ええ。いってらっしゃい」

女の子 「はい。お姉さん、さようなら」 タタタタタ……

紗和子 「………………」 (……行ってしまった)

紗和子 (私……)

紗和子 「……私は、なんてバカなのかしら」

紗和子 (本当に、なんてバカな……――)


「――バカじゃないだろ」


紗和子 「えっ……?」


192: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:54:27 ID:xdZFqhxY

紗和子 「ゆ、唯我成幸!?」

成幸 「よっ、関城」

紗和子 「どうしてここに……?」 カァアアアア…… 「っていうか、今の話、ひょっとして聞いてたの!?」

成幸 「……ああ。悪いけど、聞かせてもらったよ。ごめんな」

紗和子 「なっ……なななっ……」

紗和子 (私が小学生相手に力説してる姿を見られた……!?)

紗和子 (は、恥ずかしくて死にそうだわ……)

成幸 「……道路からさ、お前が小学生の女の子と話してるのが見えたから」

成幸 「お前がとうとう緒方の代わりに小学生によからぬことをしようと決意したのかと思って見張ってたんだよ」

紗和子 「あなた私のことをなんだと思ってるのかしら!?」

成幸 「結果的に盗み聞きをしたみたいになってしまった。それは本当にすまん」

成幸 「……オホン。まぁ、それは置いておくとして、だ」

成幸 「立派だったな。どういう関係かしらないけど、あの子、お前と話したおかげで元気が出たみたいだったぞ?」

紗和子 「………………」

紗和子 「……私は何もしてないわよ」


193: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:55:09 ID:xdZFqhxY

成幸 「…… “あなたは悪くない”」

紗和子 「……何よ? からかってるの?」 ジトッ

成幸 「大真面目だよ。ああやって、自分のことを肯定してもらえたら、誰だって嬉しいだろ」

成幸 「だからあの女の子だって、自分の非を素直に認められたんだろ」

成幸 「だから、お前は本当にすごいよ、関城」

紗和子 「……違うわよ。私は、そんなことを考えて、あんなことを言ったわけじゃないもの」

紗和子 「私はただ単純に、あの子に、私を重ね合わせていただけだわ」

成幸 「……?」

紗和子 「……少し昔ばなしをするわね」

成幸 「昔ばなし……?」

紗和子 「ええ。昔ね、勉強が大好きな女の子がいたの。中学生の女の子よ」

紗和子 「その子は特に理科が好きでね、がんばって勉強をしていたの」

紗和子 「でもね、その子が勉強をがんばればがんばるほど、クラスメイトは嫌な顔をしたわ」

紗和子 「“平均点を無駄に上げるな” とか、“勉強ができたって仕方ない” とか……」

紗和子 「女の子はそんなクラスメイトの声が嫌になって、教室に行かなくなっちゃったわ」


194: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:55:56 ID:xdZFqhxY

成幸 「なんだそれ! ひどい話だな!」

紗和子 「……そうね。ひどいと思ったわ」


―――― ((どうして…… 勉強できてほめられるんじゃなくて バカにされなきゃいけないのよ))


紗和子 「その子はずっと、そう思っていたわ」

紗和子 「……でもね、そうじゃなかったかもしれないって。最近そう思うの」

紗和子 「その子はもっとうまくできたんじゃないか、って」

紗和子 「バカにされたって、気にしなければいい。ううん。笑い返してあげればよかったかもしれない」

紗和子 「そもそも彼らにしてみれば、ただの冗談だったのかもしれない」

紗和子 「それを本気にして、ひとりで嫌な気持ちになって、逃げていただけなのかもしれない……」

紗和子 「……最近、その子はそう思うのよ」

成幸 「………………」


195: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:56:51 ID:xdZFqhxY

紗和子 「あの女の子が友達と喧嘩してる姿を見て、昔ばなしの女の子のことを思い出したの」

紗和子 「ああ、ふたりはきっと、同じなんだ、って」


―――― ((あの子が辛い思いをしているんじゃないかと思うと、心配でたまらない……))

―――― ((あのときの私のように))


紗和子 「……でも、違ったわ。私の勝手な勘違いだったわ」

紗和子 「だって、あの女の子は自分の非を自分で認められていたわ」

紗和子 「昔ばなしの女の子だって、ひょっとしたら、勉強ができることを鼻にかけていたかもしれない」

紗和子 「勉強ができない回りを見下していたかもしれない」

紗和子 「……自分のことを棚に上げて、だから周囲から孤立していただけかもしれない」

紗和子 「あの子は偉いわ。昔ばなしの女の子とは、違う……」

紗和子 (私とは、全然……違う……)


196: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 00:59:15 ID:xdZFqhxY

成幸 「………………」

ハァ

成幸 「……何言ってんだ。そんなの当たり前だろ」

紗和子 「えっ……?」

成幸 「性格だって環境だって何だって違うだろ」

成幸 「あの女の子には、たしかに友達に対して非があったかもしれない」

成幸 「でも、だからといって昔ばなしのその子にも、クラスメイトに対して非があったとは限らないだろ」

成幸 「その子は悪口みたいな冗談に言い返せるような性格だったか?」

成幸 「その子はクラスメイトのことを見下すような性格だったか?」

成幸 「……あの女の子と昔ばなしのその子は違うよ。全然違うよ。違うに決まってるだろ」

成幸 「そうやって自分を責めるのはやめろよ。お前の大好きな緒方は、そんな風に考えるか?」

紗和子 「………………」 フルフル

成幸 「だろ? だから、俺じゃ不満だろうけど、お前があの子に言ってあげたみたいに、俺が言うよ」



成幸 「お前は何も悪くないよ、関城」


197: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 01:00:03 ID:xdZFqhxY

紗和子 「………………」

ウルッ……

紗和子 「……!?」 (な、なんで涙が……でて……くるの?)

成幸 「せ、関城……!?」

紗和子 「ゆ、唯我成幸っ、向こうむいてなさい!!」

成幸 「大丈夫か? どこか痛いのか?」

紗和子 「あー、もう! このニブチン男! 泣いてるから恥ずかしいから向こうむいてって言ってるの!」

成幸 「あっ……」 プイッ 「わ、悪い……」

紗和子 「……いいわよ、べつに」

グスッ……

紗和子 (……まったくもう。急に変なこと言うから……)

紗和子 (……どうしてくれるのよ)

ポタッ……ポタッ……

紗和子 (嬉しくて、涙が止まらないじゃない……)


198: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 01:01:24 ID:xdZFqhxY

………………しばらくして

成幸 「……もう大丈夫か? 関城」

紗和子 「大丈夫よ。何も問題ないわ」

成幸 「目、真っ赤だけどな……」

紗和子 「……デリカシーのない男ね。それは思っても口に出さないの」

成幸 「……悪い」

紗和子 「いちいち謝らないで。私がいじめてるみたいじゃない」

紗和子 (……まったく。どうしてこんなに鈍い男が)


―――― 『お前は何も悪くないよ、関城』


紗和子 「あんなに、嬉しい言葉をくれたんだか……」 ボソッ

成幸 「ん? なんか言ったか、関城?」

紗和子 「……なんでもないわ」 (どうせこの鈍い男は、何も察してはくれないし)

紗和子 (……でも、このままやられっぱなしってのも性に合わないわね)

紗和子 (そうだ。いいこと思いついたわ)


199: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 01:02:00 ID:xdZFqhxY

紗和子 「……ねえ、唯我成幸」

成幸 「うん?」

紗和子 「あなた、いつだかこんなこと言ってたわよね?」


―――― 『は 初デートはどこがいいかしら!?』

―――― 『なるべく金のかからないところが…… 公園とか』


成幸 「……お前、いきなり何の話を始めるんだよ」

紗和子 「いえいえ、奇しくも私は、あなたの希望通りのことをしてしまったと思ってね」

成幸 「?」

紗和子 「だってそうでしょう?」

クスッ

紗和子 「今日はふたりきりよ? あなたと私の初デートは、公園だわ」

成幸 「なっ……」 カァアアアア…… 「き、急に何を、変なことを……」

紗和子 (ふふっ……効いてる! 効いてるわ!)


200: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 01:02:50 ID:xdZFqhxY

成幸 「は、初デートって、そんな……」

成幸 「こんなの、ただ学校帰りにダベってるだけで、デートじゃ……」

紗和子 「へぇ? なるほど? これがデートじゃないなら、また今度公園デートでもしましょうか?」

成幸 「なっ……///」 プシュー

紗和子 (ふふふ。照れてる照れてる。じゃあ、最後にダメ押しを……)

紗和子 「どうせだし、いっそのこと私たち付き合っちゃう?」

成幸 「えっ……」

成幸 「あっ……、えっと……いや、その……そういうの、俺、よくわからないし……///」

成幸 「いや、でも……そっか。お前と……付き合う、かぁ……」

紗和子 「……?」 (えっと……? この反応は、一体……?)

成幸 「……そう、だな。お前と付き合ったら楽しそうだな。悪くないかもな」

紗和子 「へっ……?」 ボフッ 「……な、ななななな、何を、言ってるの!? 唯我成幸!?」

紗和子 「じ、冗談に決まってるでしょう!? バカなのかしら!?」

成幸 「じ、冗談!? えっ、あっ……」

成幸 「そ、そうだよな! 冗談に決まってるよな! び、びっくりしたー!」


201: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 01:03:25 ID:xdZFqhxY

紗和子 (ば、バカじゃないの……本当に……)

ドキドキドキドキ……

紗和子 (あなたと私が、付き合うなんて、そんなこと、できるわけないじゃない……)

紗和子 (だって私の大親友の、緒方理珠があなたのことを好きなのだから)

紗和子 (だから、絶対に違う。このドキドキは……)

ドキドキドキドキドキドキドキドキ……

紗和子 (違うわ。この男にドキドキしているわけでは、断じてない)

紗和子 (緒方理珠の好きな人のことを、好きになったりは、絶対しない)

ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ……

紗和子 (あーっ、もう!!)

紗和子 (いい加減静まりなさいよ!! 心臓!!)


202: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 01:05:15 ID:xdZFqhxY

………………小学校 グラウンド

女の子 「……パス行くぞー!」

男子1 「よっしゃ任せろー! ……と見せかけて、スルー!」

女子1 「えへへ。このままゴールまで持ってくよー!」

女の子 「ナイススルーパス!」 (……楽しい。やっぱり、こうやって、みんなと一緒にサッカーができるから、楽しいんだ)

女の子 (名前も聞きそびれちゃったけど、あの白衣のお姉さんのおかげだよ)


―――― 『あなたは何も悪くないわ』


女の子 (あのお姉さんの言葉が、すごく嬉しかった)

女の子 (だからこそ、わたしは、自分の嫌なところを、素直に謝ることができた……)

女の子 「………………」 (あのお姉さんの制服、一ノ瀬学園の制服だよね)

女の子 (お母さんが言ってた。一ノ瀬学園はすごくレベルが高くて、勉強についていくのも大変だって)

女の子 (……勉強、がんばろう。あのお姉さんもきっと、たくさんがんばって、一ノ瀬学園に行っただろうから)

女の子 (わたし、あの人と同じ高校に行く! そしていつか……あの人のように、なりたい!)

おわり


203: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/11/14(水) 01:05:48 ID:xdZFqhxY

………………幕間 「41アイス」

文乃 「はぁ~~~」 キラキラキラ

文乃 「夢の五段重ねなんだよ……」

ムシャムシャムシャ……

文乃 「ん~~~~~、どのフレーバーも美味しい~~~~~~最高だよ!!」

理珠 「ふ、文乃? 急いで食べ過ぎではありませんか?」

うるか 「そうだよ文乃っち。アイスは味わって食べないと、お腹壊しちゃうよ?」

文乃 「ふたりとも何を言ってるの!? 今日は41デーだよ!? アイスの割引がきくんだよ!?」

文乃 「もちろん全フレーバー食べるでしょ!? だったらそんな悠長なことは言ってられないよ!?」

理珠&うるか 「「えっ」」

文乃 「さぁ、次の五段重ねは……これと、これとこれとこれ……あとこれ!! お願いします!!」

うるか 「………………」 ゲッソリ 「……先、帰ろっか、リズりん」

理珠 「賛成です、うるかさん」

文乃 「ん~~~~~~、この組み合わせも美味しい~~~~最っ高~~~~!!」 ムシャムシャムシャムシャムシャムシャ

おわり





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