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ほたる「みんなが私の口にお菓子を投げ込んできます」

1: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)14:45:09 ID:E5N

●某日夕方/お仕事からの帰り道

白菊ほたる(トボトボ)

ほたる(はあ……またお仕事上手く行かなかったな……)

ほたる(皆を不幸にしないように気をつけていたつもりだったけど、まさか審査員さんが爆発するなんて思いもしなかった)

ほたる(今の事務所に拾ってもらって、念願のアイドルにもなれたけど、なんだかこのごろ、私の不幸はひどくなる一方の気がする)

ほたる(こんなので、アイドルなんてやっていけるのかな)

ほたる(どんどん不幸がひどくなって行ったら、いつか事務所や、やっとできたお友達に迷惑かけちゃうんじゃないかな)

ほたる(私、ここで続けていていいのかな)

ほたる「はあ……」

???「ほーっ!」つ ≡≡≡≡≡≡≡≡○


2: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)14:46:44 ID:E5N

ほたる「えっ突然物陰からなにか飛んでもがっ!?」

ほたる(えっ飛んできたものが口の中に恐い嫌だ何々甘い柔らかいいいかおり――えっ)

ほたる(もぐもぐ――これ、ぷちあんぱんだ……!)

謎のナレーション(その時ほたるの胸に故郷の母の教えが蘇った! 

謎のナレーション(食べるときは作ってくれた人に感謝なさい。一度口に入れた食べ物を出すなんてお天道様のバチが当たりますよ)

謎のナレーション(母の教えは13歳の少女ほたるに深く根付いていた。無論母親が、娘の口に突如ぷちあんぱんを投げこむ不審人物が出現する日が来ることを想定していなかったことは、言うまでもない――!!)

ほたる(……もぐもぐごくん)

ほたる「だ、大好きなつぶあんのあんぱん……失敗とお仕事で疲れた心に甘いものが染み入るよう」

ほたる「だけど一体何故こんなことを?」

ほたる「一体誰が、何のために……?」


3: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)14:47:12 ID:E5N

●某日夜/レッスンスタジオ

ほたる「はあ……はあ……」

ほたる(先輩のダンスに、なかなかついていけない)

ほたる(すぐ息が上がっちゃって。頑張って運動もレッスンも続けてきたつもりだけど、やっぱりプロは凄い……!)

ほたる(毎日居残レッスンしてるけど、疲れるばかりで何も進んでる気がしない)

ほたる(気ばかりあせって、毎日胃のあたりがじわりとねじれるような心地がする)

ほたる(ようやく本格的なレッスンができるようになったのに――私、もしかして、この世界でやっていける力が無いのでは……)

ほたる「はあ……」

???「ほーっ!」つ ≡≡≡≡≡≡≡≡○


4: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)14:47:26 ID:E5N

ほたる「えっ今度は鏡の方からあんぱん飛んでもがっ!?」

ほたる「もぐもぐ、とってもおいしいけど一体誰が――ごくん」

ほたる「その鏡の裏に誰かいるんですか、何故こんなことを――」

マストレ「(ほたるの背後のドアをドバーンと開けて登場)こら白菊!」

ほたる「ひっあ、マスタートレーナーさん」

マストレ「こんな時間まで何をしているんだ。勝手な自主レッスンは慎めといっただろう――さ、もう寮に帰るんだ」

ほたる「あ、は、はい――」

???(危なかったのでしてー)


5: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)14:52:13 ID:E5N

●翌朝/寮食堂

ほたる(ああ、なんだか疲れが取れない気がする)

ほたる(がんばらなきゃ、もっと頑張って、私を拾ってくれたPさんに恩返ししなきゃ)

ほたる(食欲ないけど、少しだけでも食べておかないと……トーストを一枚だけ……)

関裕美「あ、おはようほたるちゃん。はい(サッ)」

ほたる「――あの裕美ちゃん」

裕美「なあに?」

ほたる「何故、私のトレーにさも当然のようにいちごのシュークリームを……?」

裕美「シュークリーム、好きだったと思って(にこにこ)」

ほたる「それは……好きだけど……」

裕美「よかった! じゃあ、全部食べてね」

ほたる(食欲ないからちょっとだけにしておきたかったんだけど)

裕美(じっ……)

ほたる(とっても断わりづらい……!)



注・シュークリームは美味しく完食しました


6: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)14:52:33 ID:E5N

●さらに後日/某オーディション待合室

ほたる(ああ、折角事務所が紹介してくれたオーディションなのに、電車が回転して遅刻しそうになっちゃうだなんて……!)

ほたる「(ガチャ)すみません!! 遅れてしまい……」

財前時子(ギロッ)

ほたる「ひっ(同じ事務所の財前せんぱいだ……!)」

時子「集中してる人もいることがわからないのかしら。さっさと、静かに座って順番を待ちなさい」

ほたる「はっ、はい……!」

時子「貴女の順番は私の次よ」

ほたる「は、はい(ちょこん)」

時子「おろかな子ね。そんなに間を開けて座っては、後の順番の者の迷惑になるでしょう」

ほたる「す、すみません!」

時子「静かにしろって言ったのを、もう忘れたのかしら。それとも耳が悪いの? ――もっと間を詰めなさい」

ほたる「はいぃぃぃ……」


7: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)14:55:10 ID:E5N

時子「……」

ほたる(びくびく、ちらっ)

時子(イライラ)

ほたる(すごく機嫌悪そうに見える……恐い……)

時子(ジロッ)

ほたる(びくっ)(私と一緒になってしまったから、かな)

時子(なにやら首を傾げる時子様)

ほたる(前の事務所でもこんなことあったな……私と一緒だと、オーディションできっと悪いことが起きるからって)

時子(持参の荷物を御手ずから開かれる時子様)

ほたる(この事務所でも、そうなのかな。裕美ちゃんや、泰葉ちゃんみたいに仲良くしてくれる子もいるけど、やっぱり私と一緒は嫌だって人もいて――ううん、居るよね、当たり前だよね)

時子(なにやら荷物から小箱を取り出される時子様)

ほたる(私は、ここに居る人たちを不幸にするかもしれないとわかって、それでもここに居るんだから。これは当然の――)

時子「ねえ、貴女」

ほたる「は、はい!? 私の事――でしょうか」

時子「この私が貴女の顔を見てあげているというのに、何故貴女じゃないと思えるの?」

ほたる「すみません、すみません」

時子「チッ……まあいいわ。貴女。これを食べなさい(小箱ズイー)」


8: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)14:57:21 ID:E5N

ほたる「えっ、これは……(パカッ)ドーナツ?えっ、どうしてまた甘いもの……」

時子「アアン?」

ほたる「ご、ごめんなさい!」

時子「誰が謝れと言ったの。私は『食べろ』と言ったのよ?」

ほたる「は、はい、いただき、ますっ」

時子(じーっ)

ほたる(もぐもぐ……)

時子(ジロリ)

ほたる「ごっ、ご馳走様でしたっ」

時子「ずいぶん早く食べたものね――で、どうだったの」

ほたる「どう、って」

時子「味よ。味」

ほたる「あ、お、美味しかったです」

時子「仮にもアイドルになろうって子が、そんな漠然とした感想しかいえないのかしら」

ほたる「あ、あうっ、あの――しっかり甘いのに、生地が軽くて食べやすいです。グレーズにつけてある香りがとっても優しくて、なんだか幸せな気分に……」

時子「(じーっ)ちょっとはマシになったけど、『幸せな気分』って顔じゃないわね」

ほたる「す、すみません」


9: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)14:57:37 ID:E5N

時子「私の知り合いなら、ドーナツを1つ食べれば馬鹿みたいに幸せな顔をして魅力を語ってみせるわよ」

ほたる「……」

時子「あれほど度を越したのは滅多に居ないとしても。オーディション前に気持ちの切り替えも、幸せな顔の1つもできないようで、アイドルが務まると思っているの?」

ほたる「……!」

時子「フン」

ほたる「ざ、財前さん、あ、ありがとうございます!」

時子「――チッ。ドーナツ、もうひとつ食べなさい。貴女の番までその不景気な顔のままだったら、ただではすまさなくてよ?」

ほたる「は、はい!!」

時子「……ふん」

ほたる(もぐもぐ)

ほたる「――ああ、おいしい……」


10: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)15:01:37 ID:E5N

●数日後・プロダクション近くの喫茶店

ほたる「……というわけで時子様に裕美ちゃんや泰葉さん、みんなが私に甘いものをくれるようになってんぐんぐ」

藍子「あら、ほほえましいですね」

ほたる「それだけじゃなくて、いまだに隙あらば私の口めがけてあんぱんが飛んでくるしむぐむぐ」

藍子「……みんな、甘いものなんですか?」

ほたる「はい、時子様はいつもドーナツ、泰葉ちゃんは『長崎出身だから』ってベビーカステラでした……ごくん」

藍子「嫌なら、出してしまえばいいのでは」

ほたる「一度口に入った食べ物を出しちゃうなんて作った人に悪いし、裕美ちゃんも泰葉ちゃんも凄い笑顔で嬉しそうにくれるから……」

藍子「ふふ、その気持ちわかります。ほたるちゃん、一生懸命食べてくれるんだもの」

ほたる「むぐむぐ……ところで藍子さん」

藍子「はい」


11: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)15:01:56 ID:E5N

ほたる「さっきから会話の合間合間、私の口にケーキをねじ込んでくるのは何故なんですか?」

藍子「えへへ」

ほたる「いえ、誤魔化さないでください。藍子さんもだけど何故みんな一斉に私に食べ物をくれるようになったんですか。手の込んだ悪戯かなにかですか」

藍子「ここのケーキとっても評判いいんですよ。美味しくなかったですか?」

ほたる「いえ、とっても美味しかったですけど――」

藍子「ですよね。口に入れた瞬間、戸惑いつつもほたるちゃんの目が『おいしい!』って輝くのが可愛くて可愛くて」

ほたる「気がつかなかった!?」

藍子「あと、ほたるちゃんがため息ついたり辛そうな顔していたらすかさず甘いもの口に放り込んでやってほしいってみんな芳乃さんから頼まれてて」

ほたる「依田さーん!?」


12: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)15:06:26 ID:E5N

●その夜/寮・依田芳乃

ほたる「依田さん、これはいったいどういう――」

芳乃「えいー(目にも留まらぬ早業であんぱんを投擲)」

ほたる「むぐぐー!」

芳乃「そろそろ来られる頃と思っておりましたー。落ち着いて、良くかんで飲み込むとよいでしょー」

ほたる(こくこく)(もぐもくごくん)

芳乃「ささ、お茶もここにー」

ほたる「ありがとうございます――あ、おいしいお茶……」

芳乃「実家から送っていただいたお茶なのですー。お口に合えば幸いかとー」

ほたる「はい――ああ、なんだかちょっと、落ち着きます……」

芳乃「鹿児島は日本茶の三大生産地のひとつなのですよー」

ほたる「それは知りませんでした……」

芳乃「お茶請けも用意してありますゆえ、ゆったり召し上がるとよろしいでしょー」

ほたる「はい、いただきます――じゃなくて」

芳乃「ぬー。誤魔化されませぬかー」


13: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)15:06:49 ID:E5N

ほたる「落ち着いてとか言いつつ誤魔化す気だったんてすか」

芳乃「てへぺろでしてー」

ほたる「可愛いけどごまかされないですからね? 確認しますけど、私の口に甘いものを放り込むよう触れ回ったのは、確かに依田さんなんですか」

芳乃「いかにもこのわたくしの差金でしてー」

ほたる「もしかして、ため息のたびあんぱんを投げ込んできた謎の人も」

芳乃「それもわたくしですー」

ほたる「いったい何故そんなことを?」

芳乃「迷惑でしたかー(じーっ)」

ほたる「あ、え、その」

芳乃「甘いものはお嫌いでしたかー」

ほたる「いえ、この道を目指すと決めてから控えていますけど、実は甘いもの、大好きで」

芳乃「おいしくはありませんでしたかー」

ほたる「……美味しかったです」

芳乃「ほたるさんはつぶあんがお好みと聞き及んでおりましたー。お口にあってなによりですー」

ほたる「わざわざ調べて? き、恐縮です……」


14: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)15:07:20 ID:E5N

芳乃「もてなしとは心を砕くこと。相手の好みを知ることは当然といえましょー。さあおいしいお饅頭をめしあがれー」

ほたる「はいありがとうございます――いや誤魔化されないですからね!?」

芳乃「惜しいところでしたー」

ほたる「惜しくないです、もう――甘いものは確かに好きですけど、みんな黙って次々食べさせてくるから、戸惑って、不安で」

芳乃「ふむー」

ほたる「……もしかしたら私に解らないだけで、皮肉や、私に対する不満の表明なんじゃないかって」

芳乃「……」

ほたる「依田さんが誤魔化すのは、私に知られたくない意図があるからでは?」

芳乃「――不安ですかー」

ほたる「……」

芳乃「でも、そこに悪意がないとは、すぐに知れたでしょー」

ほたる「……はい。時子様も、藍子さんも。裕美ちゃんたちも。私を、悪くなんて思って居ないって思います。むしろ、お菓子を放り込んでくる他は、いつもこんな私に親身になってくれて」

芳乃「よきかなー」

ほたる「きっかけはともかく、みんないい人なんだって解ってうれしかったのは本当です――だけどいい人だから余計謎で。何故。何故みんな私の口にお菓子を次々に!」

芳乃「皆頑張ってくれているようで、頭が下がる思いですー」

ほたる「おかげで私、1.5キロも太って42キロになったんですよ」

芳乃「しっかり効果も上がって、めでたきことかとー」

ほたる「えっ?」

芳乃「ほー?」


15: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)15:08:53 ID:E5N

ほたる「あの、もしかして私の口に次々お菓子が投げ込まれるようになったのは」

芳乃「無論、ほたるさんを肥やすためなのでしてー」

ほたる「なんですかそれー!!」

芳乃「なんですかとは失敬なー。これは重大なお役目なのですー」

ほたる「私が太ることのどこに重大な意味が」

芳乃「具体的には世界の平和がかかっておりましてー」

ほたる「せかいのへいわ!?」

芳乃「ほたるさん、ほたるさん。夜も深まるこの時間、少々声が大きいのではないかとー」

ほたる「す、すみません、でも、え?」

芳乃「至極まじめなお話なのですよー?」

ほたる「えっ、えっ? 私の体重と世界の平和に何の関係が――え? ドッキリ?」

芳乃「具体的にはほたるさんがこれ以上痩せると」

ほたる「痩せると?」

芳乃「世界が滅ぶのですー」

ほたる「原因と結果の落差が大きすぎて、ちっとも飲み込めない……!」


16: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)15:09:20 ID:E5N

芳乃「しかしこれは事実。この依田の芳乃が間違いなしと請け負うところなればー」

ほたる「で、でも私、この事務所に来る前からだいたいこんな体重で」

芳乃「ほたるさんは東京に出てこられてから、少し身長が伸びていますねー?」

ほたる「は、はい」

芳乃「それなのに体重は据え置き。むしろやや減ってしまっている。そうではありませんかー」

ほたる「どうしてそれを……もしかしてそれも依田さんのお力とかそういう感じの?」

芳乃「いえ、ぷろでゅーさー殿に、いろいろと資料を見せていただいたのですー」

ほたる「Pさん、Pさーん! 私のプライバシー!!」


17: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)15:09:48 ID:E5N

芳乃「まあそのあたりはさておくとしてー」

ほたる「過去の体重やスリーサイズまで暴露されているのはちょっとさておけない感じです……」

芳乃「無論わたくしも、このような事態でなければこのような手はとらなかったのですがー」

ほたる「世界が滅亡する、って話ですか」

芳乃「いかにもー」

ほたる「ものすごく信じられない……」

芳乃「ほたるさん、貴女は生まれてこのかた一身に不幸を受けてこられましたー」

ほたる「……」

芳乃「されど、その不幸がどこから来るのかを考えたことはありますかー」

ほたる「――」

芳乃「それを知るためには、この世界のありようについて、少し語る必要があるでしょー」

ほたる「世界のありよう……?」

芳乃「こほん――世界というのは、目に見えるものだけで出来てはおりませぬ。わたくしたちが住まい、かんじることの出来る世界ー。そして、そこに確かにあるのに見ることも触れることも出来ぬ異界が隣り合い、重なりあってなりたっているのでしてー」

ほたる「なんだか話がどんどん大きくなっていくような」


18: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)15:14:20 ID:E5N

芳乃「この地面の下に死人が住まう国があるという考えー。あの海の向こうに神の国があるという考えー。森にあやかしのすみかがあると信ずることー。それすなわち異界。あるけれど見えぬ、世界の外側というべきもの」

ほたる「……」

芳乃「たとえば、鳥居を見たことがありましょー。あれは神域と人域をわかつ門なのですよー」

ほたる「……(ゴクリ)」

芳乃「まこと、人の世にはさまざまな異界に通ずる門があるのですー。その中には人に幸をもたらす異界に通ずる門があり、人に災いをもたらす国に通じる門もあるのですがー(じーっ)」

ほたる「な、なんですか……?」

芳乃「ほたるさん。貴女はまさに、災いがあふれ出してくる異界の門に詰められた栓のようなお方ですー」

ほたる「……!!」

芳乃「ほたるさんは栓として、その異界からあふれ出す災いを塞き止めておりますー。しかし、せき止めきれず、溢れる災いも存在しー。それが貴女の周りの『不幸』として現れているのですー」

ほたる「……」

芳乃「というわけでたんと食べて太るのでしてー(カッ!)」

ほたる「だからなんでそうなるのかが飲み込めないんですー!」

芳乃「栓が細ると隙間が大きくなる。なんの不思議がありましょうー」

ほたる「そんな乱暴な話だったんですか!?」


19: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)15:14:57 ID:E5N

芳乃「このウエスト。この細くて綺麗なウエストの脇あたりからどばどばと不幸が漏れてるのでしてー(さすさす)」

ほたる「くすぐったい、くすぐったいです!!」

芳乃「そなたが肥えれば穴にきっちり詰まって不幸が漏れなくなりましょー。世界のために肥えるのです太るのですほたるさんー」

ほたる「私、アイドル目指してるのにー!? ああでも不幸が――ほんとか嘘かわからないけど人を不幸にすることだけは、うーんうーん」

芳乃「ぶっちゃけアイドルを目指しているにしても細すぎでしょー。わたくしより5センチも高いのに2キロしか違わなくてウエストは同じってなんなのですかー。なんなのですかー(さすさす)」

ほたる「いやああ依田さんの手が執拗に私のウエストを責め立てるーっ!」

芳乃「こほん。具体的にはあと4キロほど太ると健康的かつ見目に麗しいかとー」

ほたる「(ぜいぜい)あ、目指すはだいたい標準体重ぐらいなんですね……」

芳乃「そういうわけで、これからもじゃんじゃん甘味を叩き込んでゆく予定なので覚悟するがよいでしょー」

ほたる「あの、待ってください、ちょっと待ってください。なんだか全体にこう飲み込めなくて」

???「(ドアをバーンと開けて登場)そうです、ちょっと待ってください!」

芳乃「なにものー?」

ほたる「あ、貴女は――」


20: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)15:15:25 ID:E5N

???「扉の外から話は全て聞かせてもらいました。その計画、見過ごせません!」

ほたる「私と同郷の15歳、お嫁さんにしたいアイドルナンバーワンの呼び声も高い、五十嵐響子さん!?」

響子「丁寧な解説ありがとうほたるちゃん――芳乃さん、繰り返しますが、あなたのたくらみ、見過ごすことは出来ません!」

芳乃「ほほー。それは何ゆえでしょー」

響子「甘いものだけ追加して4キロ太らせようなんて、不健康です!(カッ!)」

ほたる「異界とかそういうのはおいといてそっち!?」

芳乃「おー、言われてみればー」

ほたる「そして依田さんはあっさり納得しちゃうんですか」

芳乃「わたくしとしてはほたるさんが肥えてくれさえすれば良いのでー」

響子「体重を増やすにしても、健康的なやりかたというものがあります。食生活の見直し。生活習慣の健全化――ほたるちゃん!」

ほたる「は、はい!」

響子「ほたるちゃんは食べるものもちゃんと食べずにトレーニングばっかりで休憩もちゃんとしない――そんなことで健康にやっていけると思ったら大間違いです。私が懐かしの鳥取郷土料理をいっぱい作ってあげますから、一緒に体質改善と健康的な体重増量を目指しましょう!」


21: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)15:18:09 ID:E5N

芳乃「おー、これは力強い助っ人の登場でしてー(ぱちぱち)」

ほたる「あの、私、もともと食が細い方で――それに先輩方に全然届かないから、人の倍は努力しないと」

響子「なに言ってるんですか、世界の運命がかかっているんでしょう」

ほたる「そこには疑問を抱かないんですね……」

響子「それに生活習慣を改善して健康になれば、不幸対策にもなるんですよ?」

ほたる「そんな馬鹿な!?」

響子「まず早寝早起きを身に着けていつもより一本早い電車に乗れば、交通機関のトラブルに巻き込まれる率はかなり減ります」

ほたる「それはそう――かも知れないような気が……!?」

響子「きちんと栄養が行き届けば注意力が増して落し物したり転んだりも減ります」

ほたる「うぅ、本当っぽくて反論できない」

響子「さらにお肌の色艶もよくなって笑顔がもっとステキに。ほたるちゃんがオーディションで落とされる確率もグッと低下!」

ほたる「それはなんだか心引かれてしまいます……!」


22: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)15:18:31 ID:E5N

響子「そうと決まれば早速実践あるのみです。さ、寮の食堂に行きましょう(ぐいぐい)」

ほたる「あの、待って、待ってください!?」

芳乃「世界の滅亡を防ぐために、いそぐのですー」

響子「そうそう、世界のために食べるんです!」

ほたる「わーん、半信半疑なのに話のスケールが大きすぎて断わりきれないー!(ずるずる)」

泰葉「(ガチャ)ほたるちゃんの生活を改善するんだね。無茶なオーバーワークばっかりしてるほたるちゃんに」

裕美「(ガチャ)そういうことなら私たちも手伝うよ! あまり食べないの心配だったし」

藍子「(ガチャ)ふふふ、栄養も大事だけど、あまいデサートの楽しみもあっていいよね? 甘いものはね、心に余裕をくれるんだよ。いつも不安そうにしてるもんね、ほたるちゃん」

ほたる「狙い済ましたようにみんな現れるし! 心配ばかりかけてごめんなさい!」

時子「フン」

ほたる「廊下にはドーナツ持った時子様も待機しているし!」

響子「実は私も前から心配だったんですよ。周りが見えてない感じでハラハラするっていうか――世界の危機とはいい機会です。さあさあ、さあさあ!!」

ほたる「解りました、解りました。食べますから。ご心配かけたり無茶したりしてたのは謝りますからひっぱらないでー!!」


23: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)15:18:47 ID:E5N

ほたる(こうして私は、世界の危機を回避するためによく食べて生活を改善することになりました)

ほたる(世界の危機という話は大きすぎて、正直半分も信じられなかったけど――でも、びっくりする反面、嬉しかったんです)

ほたる(ずっと私は、仕方ないって思ってました。私は不幸を呼ぶんだから、って)

ほたる(だから、嫌われてもしかたない。苦しくても仕方ない。頑張らなきゃ、がんばらなきゃ――って)

ほたる(でも――甘いお菓子を投げ入れてくれた人たちも、響子さんも。その他の、たくさんのたくさんの人も)

ほたる(こんな私を取り巻いて、心配してくれるんです。私に、元気になってほしいって、余裕を持ってほしいって、無茶しないでほしいって、言ってくれるんです)

ほたる(私は――私は)

ほたる(私は、仕方ないって、私はこうだからって、そんなものから目を背けていたのかもしれません)

ほたる(一人よがりで、ただ苦しんでいたのかも)

ほたる(こんな素っ頓狂な目に遭っていながら、嬉しいって。心配してくれる人たちのために変わりたいって、そう、思ったんです――)


24: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)15:19:36 ID:E5N

●エピローグ・一ヵ月後/依田芳乃私室

芳乃「――それで、このごろほたるさんはどのような様子ですかー」

響子「はい、とってもよくなったと思いますよ」

芳乃「おー」

響子「ちゃんと食べるようになって、無茶な自主トレもしなくなりました。みんなが必ずほたるちゃんとご飯を食べるようになったからか食事の量も増えて、ちゃんと体重も増えて、すごく楽しそうです」

芳乃「皆様のお力と真心があればこそですねー」

響子「――お友達も増えたみたいです。だからかな、いつも楽しそうで。ため息をつくことも減ったから、もう芳乃さんがあんぱん投げ込む機会もないのではないでしょうか」

芳乃「で、あれば何よりの結末かとー。世界の危機は去ったといえますねー」

響子「ふふふ」

芳乃「はてー。何故ほほえましげにお笑いになりますかー」

響子「あの、ほたるちゃんが痩せたら世界が滅ぶって話、作り話だったんでしょう?」

芳乃「――何故そう思ったのでしてー?」


25: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)15:19:52 ID:E5N

響子「だって、その理屈だったらほたるちゃんが赤ちゃんのころは全然穴とサイズが合わなかったはずでしょう」

芳乃「なるほど、慧眼ですー」

響子「……ほたるちゃんはまだうちの事務所に来たばかりで、一人で空回りしてた。思い悩んで、焦って、無茶をして――人の輪にも入れずにいた。それはみんなも同じで、心配しながら、みんなを不幸にしたくないからと距離を置こうとするほたるちゃんにどう接していいか解らなかった」

芳乃「――」

響子「だから、あんな話を作ったんじゃないですか? 素っ頓狂で大きな話を作って、お菓子を投げ込めなんて冗談みたいな作戦にみんなを乗せることで、みんなとほたるちゃんの距離を縮めてしまおうとした。栓の話は、そのために必要なうそだったんじゃないかな、って」

芳乃「――わたくしはー。方便を説いただけでしてー」

響子「あはは、嘘も方便、ですね――あ、行かなくちゃ」

芳乃「いずこへー?」

響子「実は、ほたるちゃんと一緒にお出かけすることになっているんです。ほたるちんゃと、私と、みんなで――芳乃さんも、来ませんか?」

芳乃「今日は遠慮させていただきましょー。いずれまた、機会があればお誘いいただきたくー」

響子「絶対ですよ? ――それじゃ、芳乃さん。また! ありがとうございました」

(響子、ドアを開けて退場)


26: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)15:20:14 ID:E5N

芳乃(響子が出て行ったドアを、じっと見詰めている)

芳乃「――嘘も方便。なるほどー、言いえて妙でしてー」

芳乃「三車火宅の喩えもあるように、時に嘘が人のためにもなりましょー」

芳乃「確かにわたくしは方便を使いましたー。しかしそれは、いずれほたるさんに真実に気付いてほしいからでもありましたー」

芳乃「そして、ほたるさんは真実に気がついてくださった」

芳乃「――痩せさらばえていたのは身ではなく、心だったのだと」

芳乃「響子さん、栓の話は真実なのですよー?」

芳乃「ただ、門に詰まる栓はほたるさんの身ではなく――」

芳乃「――心だったのですー」


27: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)15:36:42 ID:E5N

芳乃「苦難は人の心が育ち、深く根を張るのに必要なもの。されど、ひたすらに荒天に晒された樹木がやがてはゆがみ、枯れるように。人のこころもまた、そのような末路をたどるのですー」

芳乃「もしそうなれば、ほたるさんの心は門から転がり落ち、世は災厄にまみれたことでしょー」

芳乃「その前にほたるさんは頑なさに気付き、心は生気を取り戻した。よきことですー」

芳乃「――そして私はまた、嘘も使いましたー」

芳乃「ほたるさんの周囲の人が、この真実に気がつかぬようにと、菓子を食べさせよ、太らせよとおかしげにけしかけたのですー」

芳乃「真実を語らずとも、互いの心の距離が狭まれば、きっとよき結果にいたるでしょうとー」

芳乃「――もし、異界の栓が心だと本当を語れば、どうなったでしょー。それが信じられたらどうなったでしょー」

芳乃「今のように、よろこばしい関係が生まれたでしょーかー」

芳乃「ほたるさんへの皆の接し方は今と違っていたのではないでしょーかー」

芳乃「そうであれば、ほたるさんの心はさらに痩せて、取り返しの付かぬことが起きたやもしれませぬー」

芳乃「しかしそうはならず。皆様のよき心のあり方が、ほたるさんの心を救い上げたのです」

芳乃「皆がいれば、ほたるさんの心が痩せさらばえることは、もうないのでしょう」

芳乃「わたくしの話しは、このまま嘘であるのがよき終わり」

芳乃「であれば、つまり、なるほど」

芳乃「――これはまさしく、『嘘も方便』」

芳乃「または、『言わぬが花』と言うべきでしょー」


(――ひとつの暗い門が、明るい光で閉ざされた)

(そして、門は二度と開かなかった――)



(おしまい)


28: ◆cgcCmk1QIM 2019/02/03(日)15:37:16 ID:E5N

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。





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