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夢見りあむ「初代シンデレラガールと共演!?」

1: 名無しさん@おーぷん 2019/03/01(金)01:04:46 ID:85u

・シンデレラガールズSS
・りあむ視点一人称地の文
よろしくお願いします


2: 名無しさん@おーぷん 2019/03/01(金)01:06:01 ID:85u

「346プロとか超大手じゃん! これワンチャンある!?」
 
 最初はいつもの怪しい勧誘かと思っていた。
 ぼくはアイドルにスカウトされた。
 スーツの人に名刺を見せられて、パンフレットを渡されて、マジなやつだとわかってもまだ現実感がない。
 ザコメンタルで学校にも馴染めずもう中退しようかでもそれじゃ人生詰むよねとか考えていた矢先。
 ぼくが、アイドルになれる。
 ぼくの大好きなアイドルに、だ。
 アイドルはメンタルの特効薬だ。アイドルがなかったら生きていけない。やむ。
 アイドルになれるってことは、沢山のアイドルと一緒にライブのステージに立てたりするわけでしょ?
 しかも346ってことは速水奏とか二宮飛鳥とかがいるってことでしょ? うわーそんな顔のいいアイドルが隣にいたらぼくは蒸発してしまうんじゃないだろうか。少なくとも直視できない自信はある。
 
「アイドル、やります! ぼくに人生逆転のチャンスをくれ!」
 
 二つ返事でアイドルになることを了承していた。趣味と実益を兼ねることが出来るなんてこの上ないラッキーじゃん!


3: 名無しさん@おーぷん 2019/03/01(金)01:07:41 ID:85u

 レッスンは事務所に所属してすぐに始まった。
 アイドルのレッスンシーンとかはDVDで見たことはあったけど、こんなにキツいものだったなんて。
 健康体ではあっても日頃から激しい運動をしているわけじゃなく、トレーナーさんからは動きが固いと怒られ、すでに振り付けの練習を頑張りすぎて腰と肩が悲鳴をあげてる。
 特にステップからのターンがどうしてもできない。何回も転ぶ。
 週末のミステリアスアイズのライブいくときにちゃんとペンライト振れるか心配になってきた。あれ競争率やばかったんだから。五体満足で行かせてくれ。
 休憩中、端っこで体育座りをするぼくに、Pサマが声をかける。
 
「どうだりあむ、調子は」
 
「メンタルは元からだけど、もう体もボロボロだよ……やむ」
 
「うんうん、いつも通りだな」 
  
「Pサマ! もっとこう……簡単に人気出る方法はないの? お金かけたプロモーションするとかさ!」
 
「アイドルが簡単にはトップになれないなんて、りあむがよく知ってるだろう?」
 
「うう……そりゃそうだけど……みんなもっとぼくをチヤホヤすればいいんだ! ぼくをすこれ!」
 
 Pサマは芝居がかった仕草でふぅと息を吐いた。
 
「まあそう拗ねるな。今日はデビューライブで組むアイドルを連れてきたから」


4: 名無しさん@おーぷん 2019/03/01(金)01:08:29 ID:85u

顔を上げると、衝撃の光景があった。
 
「おはようごさいますっ」
 
 その子は明るめの髪をツインテールで結んでいるのが印象的で、くりくりとした大きな瞳で屈託のない笑顔を向けてきた。アイドルを目指す者ならこの人を知らない人はいない。
 
「ととととと十時愛梨!? ししし初代シンデレラガールの!? あのグラビアの頂点の!?」
 
 筋肉痛を置いてきぼりにして思わず立ち上がった。
 いやいやいやいやウソでしょ!?
 十時愛梨。秋田県出身の18歳。
 新人アイドルの登竜門と言われる『シンデレラガールズ総選挙』の記念すべき第一回で一位を取った子。アイドルの歴史を語る上で欠かせない人物。
 目でっか! 顔ちっちゃ! 肌キレイ! 可愛い! 眩しい!
 ステージの上じゃなくてもほんとにいつもニコニコしてるってすごくない? どんな育ち方したらそうなるの? きっとチヤホヤされたいなんて感情を抱いたことがないくらいチヤホヤされてきたんだろうな。やむ。
 
「十時愛梨ですっ! よろしくお願いしますっ!」 
 
「あわわわわ……。し、新人アイドルの夢見りあむです」
 
 慣れない敬語がとっさに出るほどには動揺してる。


5: 名無しさん@おーぷん 2019/03/01(金)01:08:47 ID:85u

近くで見るとホント可愛い……。なんかもうさぁ……『ザ・アイドル』っていうかさぁ……『女の子』って感じで、本当にぼくと同じホモサピエンスなの? 同じ生き物なの? 
 
「十時愛梨……さん。よろしくお願いします」
 
「はいっ! よろしくお願いします、りあむさん! あ、私の方が年下なので『愛梨ちゃん』でいいですよ~」
 
「いやいやいや大先輩にそんな恐れ多い! むしろぼくの方こそ『りあむちゃん』で!」
 
「そうですかぁ? だったら『愛梨ちゃん』『りあむちゃん』にしませんか? せっかく一緒にお仕事するんですし」
 
 ふぁー! あの十時愛梨に名前で呼んで貰えた! 認知して貰えた! もうこれぼくアイドル辞めてもいいんじゃない? わりと満足してるよ?
 
「Pサマ? どうしてこうなった?」
 
「今のアイドル業界には、新しい風が必要なんだ」
 
「新しい、風?」
 
「そう。最近じゃみんな、やれユニットだのやれ順位だの、色んなことに縛られ過ぎてる。だから今、そういうのを取っ払って新しいことをしないと、この業界は廃れていく。今回はそれを打破する第一歩だ」
 
 なんだかすごいものを背負わされた気がする。


6: 名無しさん@おーぷん 2019/03/01(金)01:09:02 ID:85u

 天然のイメージが強かった愛梨ちゃんだけど、レッスンの様子はそんなことはなく。ステージでも時折見せる、ドキッとするような真剣な表情が垣間見える。
 でも、レッスンの合間は、床に這いつくばるぼくに飲み物を持ってきてくれたり、振り付けのアドバイスとかも優しく教えてくれたりと、いやほんと天使か。
「愛梨ちゃんはどうしてぼくにそんなに優しくしてくれるの……?」
 
「沢山の人に、優しくしてもらったから」
 
 愛梨ちゃんは迷わず答えた。
 
「私は、なんにもできない、なんにも知らないただの女の子だったんだけど、家族と、友達と、プロデューサーさんと、アイドルの仲間と、ファンの人達に、沢山の人達に愛されて、私はようやくここにいるから」
 
 愛梨ちゃんは、いつもの笑顔で、いつもと同じように、そこにいる。
 
「だから、アイドルをして、沢山の人達に笑顔になって貰うのが、私なりの恩返しなんですっ」    
 
「天使がいた」 


7: 名無しさん@おーぷん 2019/03/01(金)01:09:58 ID:85u

ぼくには体力も根性もない。でも、ステージというゴールが見えていることへの努力というのは、案外やれば出来るものだった。
 人間、目標がわからないことへの努力はしたくない。
 自分には才能がないんじゃないか。
 この努力は無駄じゃないのか。
 そんな思いがいつも頭にちらつく。
 ザコメンタルのぼくには過酷すぎる試練だった。
 それでも、愛梨ちゃんとトレーナーさんは的確にサポートをしてくれるし、レッスン室の設備はピカピカで広々してて快適だし、出来なかった振り付けができるようになるとか、RPGのレベル上げしたらスキル覚えたみたいな、成長が目に見えてるのが楽しくなっていた。
 だから、本番もまあ、楽しく盛り上がれればなんとかなるでしょ、くらいの気持ちでいた。
 はずなんだけど。


8: 名無しさん@おーぷん 2019/03/01(金)01:10:35 ID:85u

 当日。  
 厚めの踵の付いた、ステージ用の靴を履いてリハーサル。
 布だか革だか、動きやすい素材ではあるんだけど、トレーニングシューズとは感覚が全然違う。めっちゃグラグラする。
 これ履いて踊るとかマ?
 足首グギッてならないよね? よね?
 そんな心配を他所に、目まぐるしく動く裏方の人たち。
 伸びていくファンの人達の列、次々増える照明。
 Pサマもさっきから何回も誰かと電話してる。
 ただの空間が、いつも見ていたライブ会場になっていく。
 あー……うん。こういう舞台裏の光景、ライブのDVDの特典映像とかでもあった。けど、目の当たりにすると、全然違う。
 空気が張りつめてる。
 ここにいるだけで息が詰まりそうになる。
 心拍数は上がってるのに、指先の温度はどんどん下がっている。
 みんな、真剣なんだ。
 お祭り気分で、お客様気分でいるのは、ぼくだけ。
 わかっていたはずなのに。
 頑張ってきたから、大丈夫なんじゃなくて、頑張ってきたから、失敗が急に怖くなった。


9: 名無しさん@おーぷん 2019/03/01(金)01:10:52 ID:85u

帰りたい。
 今すぐ帰りたい。
 ぼくはこの場に居たらいけないんだ。きっとそう。
 だけど、あれよあれよという間に、衣装を合わせ、化粧を施され、帰るという選択肢はなくなっていた。
 
「りあむちゃん、どうかしましたか?」
 
 流石に見かねたのか、愛梨ちゃんが声をかけてきた。愛梨ちゃんのプリンセス衣装めっちゃ可愛い。だけどぼくのテンションは上がりきらない。ちょっと今の体調はヤバすぎるんじゃないかな。
 
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる……」 
 
 控え室の扉の前で、Pサマとすれ違った。Pサマはぼくに何か言いたげだったけど、それより速くぼくは横を通り過ぎていった。
 Pサマの顔を見ることはできなかった。


10: 名無しさん@おーぷん 2019/03/01(金)01:12:11 ID:85u

化粧室入り口の扉をゆっくり開けて、洗面台の前に立ち、鏡を見る。
 化粧で隠されているが、この距離で見ると目の周りも、唇も血色が悪い。
 とてもじゃないけど、これからステージに上がるアイドルの姿とは思えなかった。
 アイドルの舞台裏DVDとかではここから身を奮い立たせてとかのはずなのに、自分自身がそうなるイメージが全くつかない。
 そりゃそうだ。
 ぼくにはいいとこなんて何もないから。
 ぼくには語れるような武勇伝もなければ、感動のドキュメンタリーを作れそうな波乱万丈の人生エピソードもない。
 そう、何もない。
 心を病む人、人生詰んでる人って大層なトラウマとかきっかけとか、そういうのを抱えてるイメージってきっとあると思う。
 だけど本当はそうじゃない。
 何もない。
 主役になったことも、大きな責任を負ったことも、挑戦も成功も夢も希望も、何もない。
 何もないから、積み重ねた確固たるものがないから、未来の明るいビジョンを描くだけの材料がないから、やむ。
 このままぼくが失敗したら、真剣に仕事をしている沢山の人達に迷惑がかかる。
 キラキラ輝いていて、尊くて、メンタルに効く特効薬で、夢と希望の象徴たる『アイドル』が、失敗する。
 ぼくはぼくの大好きな『アイドル』に、泥を塗ることになる。


11: 名無しさん@おーぷん 2019/03/01(金)01:13:37 ID:85u

胃がきゅっと締め付けられ、異物感が胸を急速に駆け上がり、喉に酸っぱいものが込み上げた。
 
「ぅ……うぐっ……うぇ……ぅぇぇ……」
 
 ぼくは洗面台に胃液を吐いた
 口に広がる苦い胃酸は、絶望の味がした。
 
「うぅぅ……がはっ……ごほっ……」
 
 視界は涙で滲み、膝が笑い、崩れ落ちないように両腕で体を支えるのがやっとだった。
 何度も口をすすぎ、いつまでも舌に残る不安を消そうと足掻く。
 
 もう、逃げてしまおうか。
 これ以上、惨めな思いをする前に。
 そうだ、それがいい。
 ぼくがアイドルなんてできるわけない。所詮ぼくは『お客様』の身分がお似合いなんだ。アイドルのライブを観客席から見てペンライトを奇声上げながら振り回して、その後でSNSで称賛と批判を垂れ流しているような生活がお似合いなんだ。
 世間じゃよく『就職したら3年は我慢しろ』なんて言われるけどあんなのウソだ。会社に都合のいい社畜を作りたいだけだ。
その前に体を壊したら元も子もない。やむ。めっちゃやむ。これ以上続けたら本当にやむ。適材適所って言葉があるじゃん。だからこれは戦略的撤退なんだ。死なないための本能的な行動なんだ。
 だからこれは逃げじゃない。逃げじゃない。逃げじゃない。 
 震える手で、化粧室の扉を引いて出る。
 
「ぅえっ……!?」 
 
 変な声が出た。愛梨ちゃんがいたから。
 どうして、ここにいるの。


12: 名無しさん@おーぷん 2019/03/01(金)01:14:13 ID:85u

「りあむちゃん、調子はどうですか?」
 
「……めっちゃやむ」
 
 逃げられない。
 最高の現実逃避だったアイドルは、今は残酷な現実だ。 
 
「大丈夫ですよ、りあむちゃん」
 
 何が大丈夫なんだ。そんな常套句聞き飽きた。
 
「無理だよ……ぼくはなんにもない……ただのドルオタのザコメンタルな女の子なんだよぉ……!」
 もう限界だった。
 それでも愛梨ちゃんは臆することなく、ふるふると首を振って、ぼくに真っ直ぐな視線をくれた。
 
「りあむちゃんは『ぼくをすこれ!』って言えるところが、いいところだと思います」
 
「何それ……そんなの、ぼくが言いたいから言ってるだけで……」
 
「私は、アイドルは、ならせてもらうんじゃなくて、自分でなるものだって、アイドルをしてしばらくしないと分からなかったですから」 
 
 愛梨ちゃんは、ふっ、と柔らかく笑った。
 
「だから、デビューする前から、見つけてもらうのを待つんじゃなくて、自分から見つけてもらおうとするりあむちゃんは、きっとアイドルに向いているんだと思いますっ!」
 
 愛梨ちゃんの真っ直ぐなその言葉は。
 確かに、力があった。
 それは正に、ぼくが信じてきた『アイドル』の言葉だった。
 親でもない、先生でもない、Pサマでもない、ネットの向こう側のオタクでもない。
 人を支え、突き動かす、アイドルの力。
 
「そんな……このタイミングで優しくしないでよう……うううぅ……うわーん!」
 
 愛梨ちゃんは泣きじゃくるぼくの手を両手で包み込むように握った。
   
「それに何より、私はりあむちゃんと一緒に、ステージに出たいんですっ!」
 
 そんなこと、言われたら。
 ここで前に進まなかったら、ぼくはぼくの大好きな『アイドル』の持つエネルギーを、否定することになる。
 ……っていうか、アイドルから一緒にステージに出たいって言われてるんだよ!?
 しかもあの初代シンデレラガール十時愛梨に! そんなチャンス二度とない!
ここで行かなきゃドルオタ失格でしょ!?
 
「……わかった。もう少しだけ、やってみるよ」
 
「はいっ! よろしくですっ!」


13: 名無しさん@おーぷん 2019/03/01(金)01:14:37 ID:85u

覚悟は決めた。
 舞台袖からでもお客さんのざわめきは聞こえて、心臓が破裂しそうに痛い。
 ハートにまだ毛は生えていないけど、たぶん今だけはアップルパイの生地で被われてる。きっとそう。


14: 名無しさん@おーぷん 2019/03/01(金)01:15:01 ID:85u

遂にステージが始まる。
 サイリウムの海、コールの声が波となって振動となって体を震わせる。
 ぼくが歌えば、会場は声援を返してくれて、ぼくの体を突き動かす。
 大丈夫。いける。
 楽しい。楽しい。楽しい!
 アイドルのライブは一期一会で、パフォーマンスも、会場の雰囲気も、そのときにしか出会えないから尊いんだ。
 そう思っていたけれど。
 この時間が、無限に続けばいいのにと、思ってしまうんだ。
 もっと! もっとぼくをチヤホヤして!
 勢いに乗って、ここでターン。何度も練習したところだ。
 
「あっ……」
 
 それでも、慣れない靴だといつもの足裏との感覚とズレが生じる。
 軸足が滑り、重心が外れて、視界がぐわんと傾く。
 一瞬でぼくの体はステージに叩きつけられた。


15: 名無しさん@おーぷん 2019/03/01(金)01:15:24 ID:85u

「痛っ……!」
  
 靴も脱げて、ぼくの右足のシンデレラの魔法は解けてしまった。
 早く起きろと体に命令するも、体に力が入らない。
 頼むよ。動いて。
 動け。動け。動け!
 重圧が、時間の経過とともにどんどん重くなる。
 ああ、やっぱり背伸びはぼくには早すぎたんだ。
 そっか、ぼくの人生は、ここで詰みなんだな。
 まあでも……いっかぁ。最後に、いい夢を見れた。
 
「りあむちゃん」 
 
 笑顔の愛梨ちゃんが、ぼくを見ていた。
 愛梨ちゃんが靴を拾い、空いている手を、ぼくに伸ばした。ステージライトに照らされた姿は、まるで後光が差しているようだった。
 流されるままに立ち上がったぼく。
 足首は靭帯が少し伸ばされたくらいで、大きな痛みもなく捻挫という程ではないみたい。
 完全にテンパっていると、愛梨ちゃんはぼくの前で片膝を着き、スッと両手で靴を差し出した。
 それはまるで、シンデレラを見つけた王子がガラスの靴を履かせるように。
 会場の空気が変わる。観客席から爆発のような歓声が上がった。


16: 名無しさん@おーぷん 2019/03/01(金)01:15:44 ID:85u

 主役になんてなれなかった人生だった。
 沢山のことから逃げ回ってきた人生だった。
 だけど、今、少なくともこの瞬間だけは。
 このガラスの靴を履くのは。
 ぼくの人生の主役は、ぼくなんだ!
 靴に足を通す。
 幸い、曲のラストのサビの部分は残っている。
 ぼくの人生のサビも、きっとここかもしれない。
 顔を上げて、周りを見渡せば、ちゃんとぼくを見てくれる人がいることに気づいた。
 だったら、豆腐メンタルだろうがなんだろうが、こんなときくらいはドヤ顔してやんよ!
 そこからは、なんとかやりきった。
 大歓声の中、最後の振り付けはビシッと決まったと思う。
 とはいえ体中の細胞が酸欠を起こしていて、肺が痛い。髪は汗でべとついて頬に張り付く。
 不快感すごい。
 死にそう。
 でも、生きてるって感じがする!


17: 名無しさん@おーぷん 2019/03/01(金)01:16:05 ID:85u

 すぐに曲終わりのMCが入る。
 愛梨ちゃんは汗こそかいているけど、全然息切れしていない。すごい。
「今回は、今日デビューの新人さんと一緒にステージに立たせてもらいましたっ!」
 
 サイリウムのうねりと共に、ワーッと歓声が上がる。声は圧となって、胸の奥がビリビリと震える。
 
「一言いただきたいと思いますっ! それじゃ、りあむちゃんどうぞっ!」
 
 え? え? 今、自己紹介やんの!? 聞いてないよ! なにそれめっちゃやむ! はー、もう知らない! もうどうにでもなれ!
 
「夢見りあむ19歳! アイドルに人生一発逆転賭けてます! とにかく売れたい目立ちたい! だから……」
 
 マイクを両手で握り締め、ぼくを認めさせるために、力の限り叫ぶ。
 
「オタク! ぼくをすこれ! よ!」  


18: 名無しさん@おーぷん 2019/03/01(金)01:16:40 ID:85u

 ライブ後にどうやって控え室に辿り着いたかはもはや覚えていない。いつの間にかパイプ椅子に座っていた。
 ぼんやりとする疲労感と、不思議な高揚感が体を支配したまま、Pサマと愛梨ちゃんが話しているのを眺めていた。 
 
「愛梨。助かった。リカバリーしてくれてありがとう」 
    
「えへへっ。アドリブは結構得意なんですっ!」
 
 お客さんも沢山来たし、最終的にはライブもなんとかなった。
 だけどそれは、愛梨ちゃんの元々の人気と実力があったから。
 だから今度はぼく自身がもっとチヤホヤされたい。
 ぼくはパイプ椅子から勢いよく立ち上がる。


19: 名無しさん@おーぷん 2019/03/01(金)01:17:16 ID:85u

「ていうかPサマ、何でライブ前にもっとぼくに構ってくれなかったんだよう! もう少しで本気でやむところだったよ!」
 
「だから愛梨にトイレに迎えに行かせただろう?」
 
「そうなんです。プロデューサーさんに頼まれたので」
 
「え? あ、あれそうだったの?」 
 
「ああいうときは、プロデューサーの俺から言うよりも、同じアイドルからアドバイスを言ってもらった方が伝わると思ってな。ドルオタのりあむならなおさらだ」
 
「うぐ……」
 
 見透かされた感じがなんか癪だけど、実際にそうだったから反論できない。 
 まあ、もう過ぎたことはさておき。
 もっと大事なことがある。
 言わなきゃならないことがある。
 
「それとPサマ、聞いて聞いて!」
 
「どうした?」
 
 言葉にしたら、責任を負わなくちゃいけない。それが嫌だった。
 だけど、この熱には、アイドルから貰った熱には、嘘をついちゃダメ。


20: 名無しさん@おーぷん 2019/03/01(金)01:17:33 ID:85u

「今までは、アイドルを眺めてるだけだった。だけど……」
 
 アイドルって、プロデューサーに見い出されたシンデレラだと思っていた。
 でも、愛梨ちゃんは、もうシンデレラの役なんて、とっくの昔に越えていたんだ。
 ステージの上で、ぼくにガラスの靴をくれた愛梨ちゃんは、魔法をかけられてアイドルになったシンデレラってだけじゃない。未来の明るいビジョンの象徴である王子様で、沢山のファンと、ぼくに魔法をかける、魔法使いになっていたんだ。
 
「ぼくは、なるよ。魔法をかけられるだけじゃない。みんなに魔法をかける側に!」 
 
 だから、これは必要な宣言だ。
 だってアイドルは、ならせてもらうんじゃなくて、自分でなるものだから。
 
「りあむちゃんなら、なれますよ。きっと」
 
 隣で愛梨ちゃんが微笑む。
 
「ふっふーん。ぼくがトップアイドルになったらどうしようかな」
 
 ぼくも楽しくなってきて、Pサマも愉快そうに笑う。
 
「あっはっは。いい顔するようになったな、りあむ。そのぐらいの気概があった方がいい」 
 
「感動のステージを演出するMCならぼくに任せてよ! アイドルのライブは浴びるように見てきたから!」 
 
 ぼくはマイクを両手で握るジェスチャーをする。
 
「『アイドルの仲間、スタッフの皆さん、そしてファンのみんな。沢山の人に支えられて、ぼくは今ステージに立ってる! だから、チヤホヤされるためじゃなくて、みんなへの感謝の気持ちを伝えるために、歌う! よ!』とかどう? めっちゃエモくない?」 
 
 ぼくの人生、ぼくのもの。
 アイドルがいたから、ぼくの人生がある。
 だから、アイドルが持つ、人の心を動かす力は本物だと、証明したい。
 それにもっと、チヤホヤされたい。
 だから目指すよ! トップアイドル!


21: 名無しさん@おーぷん 2019/03/01(金)01:21:05 ID:85u

終わりです
ありがとうございました。





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