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【ぼく勉】 うるか 「今週末、ちびっ子向けの水泳教室をやるんだ」

115: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:00:02 ID:UawLMgbI

文乃 「へぇ? 水泳教室?」

うるか 「うん。なんかこのあたりの子どもを集めて学校で教室を開くんだって」

うるか 「水泳部がやることになってさ。なんでも、地域コーケン活動ってやつらしいよ?」

理珠 「なるほど。感心なことですね」

成幸 「……うーん。まぁ、感心なことではあるけどなぁ」

成幸 「受験が差し迫った受験生にやらせることか、それ……?」

うるか 「あたしは息抜きになるからいいんだけどね」

うるか 「でも、滝沢先生もなんかぼやいてたなぁ……」


116: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:00:37 ID:UawLMgbI

………………少し前

滝沢先生 「……ってわけで、悪いが全員で水泳教室の講師役をやってくれ」

あゆ子 「えー? それほんとですかー?」

あゆ子 「私たち、一応受験生なんですけどー」 ブーブー

滝沢先生 「ああ、そうなる気持ちも分かるが、さすがに一、二年生だけじゃ足りないしな」

滝沢先生 「協力してくれ。頼む。この通りだ」

智波 「先生にそこまで言われちゃったら、協力せざるを得ないよねぇ」

うるか 「? あたしは元々協力するつもりだよ?」

あゆ子 「うぐっ……まぁ、私もべつに、構わないですけど……」

滝沢先生 「悪いな、お前ら。助かるよ」

あゆ子 「にしても、近隣の子ども向け水泳教室ねぇ。去年はこんなのやらなかったのに」

滝沢先生 「ああ、まぁ……」

滝沢先生 「今年は、色々あったからな。主に、武元がらみで」

うるか 「へ? あたし? あたしなんかしたっけ?」


117: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:02:01 ID:UawLMgbI

智波 「ああ……」 あゆ子 「なるほど……」

あゆ子 「つまり、うるかが軽く有名人になったから、学園の広報に利用しようって算段ですね」

滝沢先生 「うぐっ……。そうずけずけと言ってくれるなよ。学園長命令なんだよ」

智波 「先生も辛い立場ですよねぇ」

滝沢先生 「いや、逆に理解を示されても反応に困るんだけどな……」

うるか 「??? あたしがユーメイジン? どういうこと???」

あゆ子 「あ、うん。あんたはわかんなくていいよ」

智波 「うん。うるかはわかんなくていいよ。大丈夫だよ」

うるか 「?」

滝沢先生 (……ったく、学園長め。生徒に頼み込まなきゃいけないこっちの身にもなれっての)

滝沢先生 (武元のがんばりを大人の事情で利用するようで癪だが……)

滝沢先生 (水泳教室に来た子どもが、武元に憧れて学園に入学してくれれば……という広報の気持ちも分かる)

滝沢先生 (まぁ何にせよ、引き受けてしまった以上、最善を尽くさなきゃな)

滝沢先生 「……じゃあ、悪いが、今週末頼むな」

うるか 「はーい!」


118: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:02:41 ID:UawLMgbI

………………

うるか 「って感じでさぁ」

文乃 「あ、うん……」

理珠 「そうですか……」

成幸 「………………」

うるか 「? 何でみんなちょっと渋い顔をしてるの?」

文乃 「いや、何でもないよ。うるかちゃんはいつまでもそんなうるかちゃんのままでいてね」 ギュッ

理珠 「今日だけはよしよししてあげます。よしよし。うるかさんはいい子ですね」 ナデナデ

うるか 「へ? へ? 何これ何これ? 何のゲーム?」 ワクワク

成幸 (……ったく。あの学園長、ほんと利用するものは全部利用する、って感じだよな)

成幸 (あの人だけは、教育者っていうよりは経営者って感じだな)

成幸 (……まぁ、一ノ瀬学園の全教職員のことを考えれば、管理職としては妥当なのかな)

成幸 (うるかのがんばりを利用するみたいで、俺はあんまり、好きになれないけど……)

成幸 「……ま、何にせよ、やるならがんばれよ、うるか」

うるか 「へ? そんなのトーゼンっしょ! うるかちゃんがんばっちゃうかんね!」


119: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:03:38 ID:UawLMgbI

………………前日 唯我家

和樹 「行きたい行きたい行きたいー!」

葉月 「お願いー! かーちゃーん!!」

花枝 「そう言われてもね……。私は明日仕事だし、水希は登校日だし」

花枝 「一緒に行ってくれる人がいないのよ。ごめんね」

葉月 「うぅ……」 和樹 「でも、行きたい……」

成幸 「? 母さん、どうかしたのか?」

花枝 「ああ、成幸。こんなチラシがポストに入っててね」

花枝 「それで、ふたりが行きたいって言って聞かないのよ……」

成幸 「チラシ……?」

 『武元うるか選手にの泳ぎを見よう! 一ノ瀬学園主催、ちびっ子水泳教室!』 バーーーーン!!!

成幸 「………………」

成幸 (こ、これ、うるかが言ってたやつじゃないか……)

成幸 (学園長、露骨にうるかを推してきたな。こりゃ明日大変だぞ、うるか……)

成幸 (……ほんと、大変だろうな。きっと)


120: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:04:10 ID:UawLMgbI

成幸 「……で、葉月と和樹はこれに行きたいのか?」

葉月 「うん! うるか姉ちゃんに水泳教わりたい!」

成幸 「そうか……」 ニッ 「わかった。じゃあ、兄ちゃんが連れてってやるよ」

和樹 「!? ほんとに!?」

花枝 「成幸、行ってくれるの? 勉強は大丈夫なの?」

成幸 「ああ、まぁ。明日一日くらいなら問題ないよ」

花枝 「それに、あんた泳げないけど、大丈夫……?」 ジトーーーッ

成幸 「そ、その辺はまぁ、こいつらに万が一がないように、十分気をつけるよ……」

花枝 「……そう」 ニコッ 「じゃあ、よろしくね、成幸」

成幸 「おう!」

葉月 「やったー!!」 和樹 「明日はプール! プール!」

成幸 「………………」 (……まぁ、葉月と和樹のお願いを聞いてやりたいっていうのも、もちろんあるけど、)


―――― 『そんなのトーゼンっしょ! うるかちゃんがんばっちゃうかんね!』


成幸 (……こんなチラシ作られて、うるかが大丈夫かも、気になるしな)


121: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:06:21 ID:UawLMgbI

………………当日

ザワザワザワザワザワ……

うるか 「うおう……」

あゆ子 「うわぁ、こりゃまたすごい数のちびっ子たちだな……」

智波 「プールに入りきるのかな。こりゃ大変だよ」

池田 「先輩方が来てくれて良かったです。こんなの現役生だけじゃ絶対無理ですよぅ……」

あゆ子 (……まぁ、逆にうるかが来るって大々的に触れ込んだせいでもあるんだけどな)

あゆ子 (ったく、学校側はいい広報になってウハウハだろうな。バイト代くらいよこせっての)

うるか 「へへ、腕が鳴るぜー! 今日はみんなで力を合わせてがんばろうね!」

あゆ子 「ん? あ、ああ」 (うーむ。素直なうるかを見ると、自分が嫌なやつみたいに思えてくるな……)

あゆ子 「……よしっ、いっちょやるとするかー……って、ん?」

智波 「? あゆ子、どうかしたの?」

あゆ子 「いや……私の見間違いか? あの奥にいる、ちびっ子ふたりを連れた若い男……」

あゆ子 「あれ、唯我じゃないか?」

うるか 「………………」 ハッ 「……へぇ!? 成幸!?」


122: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:07:14 ID:UawLMgbI

………………

成幸 「すごい人数だな。改めて、うるかってすごいんだな……」

葉月 「とーぜん! だって、うるか姉ちゃんは有名人だから!」

成幸 「ほんとになぁ。近隣の子どもたち、うるかのことみんな知ってるんだなぁ」

成幸 「……ほんと、すごい奴だな、うるかは……――」

うるか 「――えへへ。改めて言われると、さすがに照れるね」

成幸 「へ……?」 ビクッ 「う、うるか!? びっくりした!」

うるか 「それはこっちの台詞だよ成幸ー! 来るなら来るって教えてくれればよかったのにー!」

成幸 「あ、ああ。悪い悪い。あんまり意識させない方がいいかな、って思ってさ」

和樹 「うるか姉ちゃんだー!」 葉月 「有名人だー!」

成幸 「俺は葉月と和樹の付き添いだから、気にするなよ」

「ほんものだー!」  「かわいいー!」  「あくしゅしてー!」  「あとでサインくださいー!」

うるか 「わっ……わわっ……」 (ち、ちびっ子たちに囲まれちった……)

成幸 「ほら、うるかは有名人なんだから、お客さんのほうに来たらそりゃ大変だろ」

うるか 「そ、そだね。じゃあ、あたし一回戻るね。また後でね、成幸!」


123: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:08:03 ID:UawLMgbI

………………水泳教室開始

あゆ子 「ほーら、まず水バシャバシャして……」

あゆ子 「冷たくない? じゃあ、とりあえず入ってみようか。おいで」

智波 「ふふ、あゆ子って子どもには優しいんだね」

あゆ子 「う、うるさいな。ほら、智波の担当の子たちも来たぞ」

智波 「はいはーい。じゃあきみたちもバシャバシャして水に慣れよー。おいでー」

うるか (川っちも海っちも頑張ってるなぁ。よーし、あたしもがんばるぞー)

うるか 「あたしの担当の子どもたちは……」

和樹 「はーい!」 葉月 「わたしたち!」

うるか 「!?」 (成幸とみずきんとこのチビちゃんたち!)

うるか (これは……)

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

うるか (上手に教えられれば、成幸の好感度アップも狙えるかも……!?) ギラリ

うるか (よーし! がんばっちゃうぞー!)


124: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:08:48 ID:UawLMgbI

………………プールサイド 保護者席

成幸 (うるかの奴、すごい張り切ってるな)

成幸 (それにしても、うるかが教えるのが葉月と和樹とは。変な因果だな……)

滝沢先生 「よう、唯我。お前も来てたのか」

成幸 「あ、滝沢先生。おはようございます」

成幸 「今うるかに教わってる子どもたち、うちの弟妹なんですよ」

滝沢先生 「ああ、葉月ちゃんと和樹ちゃんか。大きくなったな」

成幸 「……? 何であのふたりの名前を……?」

滝沢先生 「ああ、いや、な……」

滝沢先生 「こういう物言いは適切ではないかもしれないが……まぁ、お前ももう三年生だから、いいか」

滝沢先生 「唯我先生――お前のお父上には、私も新任の頃散々お世話になってな」

成幸 「あっ……」 (そっか。滝沢先生も父さんのこと……)

滝沢先生 「葬儀のとき以来だが、元気に育っているようで何よりだ」

成幸 「……はい。おかげさまで」


125: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:09:42 ID:UawLMgbI

滝沢先生 「……唯我、お前、教育大学を目指しているんだってな」

成幸 「……はい」

成幸 「なれるか分からないですけど、学校の先生になりたいので」


―――― 『ある人が そうしてくれたように』

―――― 『人に寄り添って教えられるような教育者を目指したい』


滝沢先生 「……そうか」

ニコッ

滝沢先生 「なれるさ。お前なら。お前は、唯我先生にそっくりだからな」

成幸 「滝沢先生……」

滝沢先生 「……ま、教職取るには、大学でも体育は必須だからな」

滝沢先生 「高校卒業までに、少しは運動神経磨いとけよ?」

成幸 「うっ……ぜ、善処します……」

成幸 「ん……?」


126: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:10:17 ID:UawLMgbI

………………プール

うるか 「よーし、プールに顔はつけられるみたいだから、身体を伸ばして浮かんでみようか」

葉月&和樹 「「はーい!」」

ザブン……

ブクブクブクブク……

うるか 「わー! 沈んでるー!」

ザバァ!!!

葉月 「ぷはぁ! ふ、不思議だわ……」

和樹 「水に沈むのって楽しいな!」

うるか 「え、えっとね、チビっこたち。くるっとすると水に沈んじゃうんだよ」

うるか 「だから、顔を水につけたら、ピーンってしてみようか」

葉月 「くるっ?」 和樹 「ピーン?」

うるか 「……えっと、えっと……」

うるか (そ、そういえばあたし、成幸に泳ぎを教えたときも上手くできなかったんだったー!)

うるか (ど、どどど、どうしよう!?)


127: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:11:54 ID:UawLMgbI

………………プールサイド

成幸 「………………」

滝沢先生 「………………」

ハァ……

滝沢先生 「……まぁ、分かってたことだけどな」

成幸 「だったらうるかひとりにしないであげてくださいよ……」

滝沢先生 「あいつには人に教える能力も必要だよ。将来を見据えるならな」

滝沢先生 「そのいい訓練になってくれればと思ったが……うーむ。難しいな」

滝沢先生 「とはいえ、私は全体を見ていなければならないし、水泳部で空いている奴もいない」

滝沢先生 「さて、どこかに、泳ぎは苦手だけど、困ってる人を見ると放っておけない奴はいないかな」

成幸 「……言われるまでもないですよ。俺、手伝ってもいいんですね?」

滝沢先生 「助かるよ、唯我。頼む」

タタタタタ……

滝沢先生 「……はぁ、嫌なもんだな」

滝沢先生 「生徒を利用している時点で、私も結局学園長先生と同じ穴の狢、か」


128: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:13:04 ID:UawLMgbI

………………プール

葉月&和樹 「「うるか姉ちゃん、次は、次は?」」 キラキラキラ……!!!!

うるか (うぅ……純粋な視線が痛いよ……)

うるか (まだ浮くこともできてないのに、次も何もないよー!)

ザブン……

うるか 「へ? ざぶん?」

成幸 「よう、うるか」

葉月&和樹 「「兄ちゃんだー!!」」

うるか 「へぇ!? 成幸!? プール入って大丈夫なの!?」

うるか 「っていうか何でプール入ってきたの!?」

成幸 「さすがに子ども用に浅くしたプールだから大丈夫だよ。多分……」

うるか (それでも多分なんだ……)

成幸 「俺もお前らを見てたらプール入りたくなっちゃってさ。ついでに手伝うよ」

うるか 「えっ、で、でも……」

成幸 「俺もこの学園の生徒なんだから、いいんだよ。手伝わせてくれ、うるか」


129: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:13:43 ID:UawLMgbI

うるか 「……う、うん。そこまで言うなら……」

成幸 「よし、じゃあ、まずは伸びて浮くところからだな」

葉月 「うん。でも、沈んじゃうの」

和樹 「ぶくぶくぶくー、って!」

成幸 「うんうん。じゃあ、とりあえず顔をつけたら、手足を伸ばしてみな。お腹を支えてあげるから」

成幸 「よいしょっ、と……」

プカプカプカプカ……

葉月 「……ぷはっ」 キャッキャ 「沈まなかったー! ちゃんとできたー!」

成幸 「多分、身体が丸まっちゃうから沈んじゃうんだよ」

成幸 「もう一回お腹支えてあげるから、手足を伸ばす感覚を覚えるんだぞ」

葉月 「はーい!」

成幸 「……ほら、うるかも、和樹にやってあげてくれ」

うるか 「へ……!? あ、うん! じゃあ、かずきんも」

和樹 「うん!」


130: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:14:26 ID:UawLMgbI

プカプカプカプカ……

成幸 「おー、ふたりとも上手だぞー……ん?」

うるか 「………………」 ジーーーッ

成幸 「ん? どうかしたか、うるか?」

うるか 「……成幸、泳ぐの苦手だよね?」

うるか 「なのに、どうしてちゃんと教えられるの……?」

成幸 「へ? いや、ちゃんと教えられてはいないと思うけど……」

成幸 「……逆に、まともに泳げないから、かな」

うるか 「……?」

成幸 「俺はそもそも運動神経が足りてないからまともに泳げないけど、こいつらは違うから」

成幸 「補講で散々教えてもらったことを、こいつらに分かりやすく伝えるだけだからさ」

成幸 「それは逆に、泳げない俺だからこそできることかな、って」

うるか 「そっか……」


131: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:15:11 ID:UawLMgbI

葉月 「ぷはっ! ちゃんと浮いたよ、兄ちゃん!」

成幸 「そうだな。すごいぞ、葉月」

成幸 「じゃあ、次はお腹の支えなしで浮いてみようか」

葉月 「うん!」

うるか 「………………」

うるか (やっぱり、成幸はすごいな……)

うるか (……それに比べて、あたしは……)

ハッ

うるか (……いやいやいや! 落ち込んでる暇はないっしょ! がんばんないと!!)


132: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:16:03 ID:UawLMgbI

………………

うるか 「次は手を引くから、少し進んでみよう!」

葉月 「はーい!! がぼがぼがぼ……」

うるか 「わー! また沈んでるー!」

成幸 「ほら、葉月。手足を伸ばした感覚を忘れるなー?」

葉月 「はーい、兄ちゃん!」

プカプカプカ……

成幸 「おお、葉月。上手だぞ。和樹もちゃんと浮けてるな。すごいすごい」

和樹 「ぷはぁ! やった、兄ちゃん! 少し進んだよ!」

成幸 「そうだな。手を引いてもらえれば、もうちゃんと伸びて浮けるようになったな」

うるか 「むぐぐぐ……」

うるか (ま、まだまだ! 次はもっとうまくやるぞー!)


133: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:16:49 ID:UawLMgbI

………………

うるか 「じゃあ、ひとりで浮けるようになったところで、次はバタ足の練習だよ!」

バチャバチャバチャバチャ……

和樹 「ぷはっ……。あり? あんまり進んでない……」

うるか 「かずきん、バタ足がね、バチャバチャって感じなんだよ」

うるか 「それだと進まないから、パシャパシャって感じにしてみて」

和樹 「???」

うるか 「あ、えっと……えっと……」

成幸 「……俺が昔よく言われたのは、こんな感じかな」

成幸 「和樹、ちょっとプールサイドに手をついてみな」

和樹 「はーい!」

成幸 「で、ちょっと足の先持つぞー? 足の先を、こうやって……」

成幸 「親指と親指を擦り合わせる感じで……」

成幸 「ここを曲げないで、ここを動かして、バタ足するんだ」


134: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:17:28 ID:UawLMgbI

和樹 「……? えっと、こう?」

バシャバシャバシャ……

成幸 「そうそう。そんな感じだ。良い調子だぞ、和樹」

コソッ

成幸 「……子ども相手だから、難しい言葉とか表現は分からないし、こんな風に身体に触って直接教えてもいいかもな」

成幸 「大人相手にはできないかもしれないけど」

うるか 「あ……う、うん。じゃあ、はづきんもバタ足の練習してみようか!」

葉月 「はーい!」

うるか 「足を伸ばして……伸ばしたまま、こうやって……」

葉月 「おー……」

バシャバシャバシャ……

うるか 「……うん。良い感じだよ、はづきん!」


135: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:18:09 ID:UawLMgbI

………………

うるか 「………………」

うるか (……はぁ。あたし、やっぱりダメダメだな)

うるか (がんばってもがんばっても、空回りしてる気しかしないよ……)

成幸 「おー! ふたりともバタ足で進めるようになってきたなー。すごいすごい!」

葉月&和樹 「「えへへー」」

ピンポンパンポン

 『休憩時間に入ります。プールから上がってください』

成幸 「ん、もう休憩時間か。じゃあプールから上がろうか」

葉月&和樹 「「はーい!」」

成幸 「ほら、うるかも」

うるか 「へ? あ、う、うん。そだね……」

成幸 「……?」

成幸 (うるか……?)


136: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:18:48 ID:UawLMgbI

………………ベンチ

うるか 「………………」

うるか 「……はぁ」

うるか (あたし、何やってんだろ。全然うまくできなかったよ……)

智波 「うーるかっ」 あゆ子 「よっ」

うるか 「? 海っち、川っち……」

智波 「見てたよー、うるか」 ワクワク 「唯我くんと一緒に子どもたちに教えてたでしょー」

あゆ子 「どうだ? ちゃんと唯我にアピールできたか?」

うるか 「………………」

うるか 「……えへへ、むつかしいかな。なかなかうまくいかないね」

うるか 「成幸に手伝ってもらって、なんとかなったって感じだよ。それどころじゃなかった、かな」

あゆ子 「うるか……」

智波 「あ……ご、ごめんね? 浮かれたこと聞いちゃって……」

うるか 「ううん。大丈夫。こっちこそごめんね」

うるか 「……ちょっと飲み物でも買ってくる。またね、海っち、川っち」


137: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:19:33 ID:UawLMgbI

………………

うるか 「……はぁ。ふたりに変なところ見せちゃったな」

うるか 「あたしから元気取ったら何が残るんだよー、ってね……」

うるか 「はは……」 ズーン (……自分で言っててヘコんできたよ)


―――― 『……逆に、まともに泳げないから、かな』

―――― 『補講で散々教えてもらったことを、こいつらに分かりやすく伝えるだけだからさ』

―――― 『それは逆に、泳げない俺だからこそできることかな、って』


うるか 「………………」

うるか 「……ほんと、成幸はすごいな……――」

成幸 「――へ? 俺がどうかしたか?」

うるか 「へぇ!?」 ガバッ 「な、成幸!?」

成幸 「よっ。どうした、うるか?」

うるか 「……ベ、べつに、何もないよ」


138: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:20:08 ID:UawLMgbI

成幸 「そうか? ならいいけど……」

成幸 「……ほら、葉月と和樹がお世話になったお礼に奢ってやるよ。スポドリでいいか?」

うるか 「へ? い、いいよ。あたし何にもしてないし……」

成幸 「何もしてないことはないだろ。ふたりとも大喜びだったぜ?」

成幸 「ちなみに今は海原と川瀬に遊んでもらってて大喜びだ。ほんと、連れてきてよかったよ」

うるか 「でも、あたしは、ほんとに何もできてないし……」

成幸 「………………」 フゥ 「……じゃ、スポドリでいいな」

スッ

成幸 「……ほら」

うるか 「あっ……」

うるか 「……ありがと、成幸」

成幸 「どういたしまして」


139: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:20:42 ID:UawLMgbI

………………

成幸 「………………」

うるか 「………………」

成幸 「……何に落ち込んでるんだ?」

うるか 「………………」 ハァ 「……やっぱり分かる? さすが成幸だね」

成幸 「いつも元気なお前が静かだからな。そりゃ分かるよ」

成幸 「……どうしたんだ?」

うるか 「反省中、なんだ……」

成幸 「反省?」

うるか 「……全然、うまく教えられなかったな、って」

うるか 「トクイな水泳のはずなのに、全然うまく教えられなかったな、って」

うるか 「せっかく来てくれた子どもたちなのに、成幸がいなかったら大変なことになってたよ……」

うるか 「だから、反省してるんだ」

成幸 「……そっか」


140: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:21:19 ID:UawLMgbI

うるか 「……もっと、成幸みたいに」

成幸 「ん?」

うるか 「成幸みたいに教えられたらいいな、って思うのに、全然だね」

うるか 「へへへ、やっぱり無理なのかな。あたしバカだし」

うるか 「がんばってみたけど、うまくいかないし、やっぱりあたしは……」

うるか 「……成幸みたいには、なれないのかな」

成幸 「………………」

成幸 「……まぁ、俺みたいになる必要はないと思うけどさ、」

成幸 「できるよ。うるかなら。うるかなら、絶対教えられるようになるよ」

うるか 「……? 成幸?」

成幸 「だってうるかはさ、」

ニコッ

成幸 「“できない奴” の気持ちが分かるじゃないか」

うるか 「“できない奴” ……?」


141: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:22:01 ID:UawLMgbI

成幸 「うん。うるかも、英語が苦手で、なかなか勉強進まなかっただろ?」

成幸 「水泳で伸び悩んだときもあっただろ?」

うるか 「う、うん。そうだけど……」

成幸 「そのとき辛かっただろ? 大変だっただろ? 悔しかっただろ?」

うるか 「……うん」

成幸 「それが分かるなら大丈夫だよ。お前はその気持ちが分かるから、大丈夫」


―――― 『なあ成幸 今の悔しさだけは忘れちゃならねえぞ』

―――― 『お前は できない奴をわかってやれる男になれ』

―――― 『「できない」 気持ちがわかるのは できなかった奴だけだからな』


成幸 「……今日はうまくいかなかったかもしれないけど、いつかきっとうまくできるよ、うるか」

ニッ

成幸 「だからまた、葉月と和樹に泳ぎを教えてやってくれよ」

うるか 「成幸……」

うるか 「うん、わかったよ! うるかちゃんに任せなさい!」


142: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:22:31 ID:UawLMgbI

うるか 「………………」

ドキドキドキドキ……

うるか 「……あのときと、同じだ」

成幸 「へ?」


―――― 『一度負けたくらいで そこまで悔しがれるなんて すごく価値のある才能だと思うけどな』

―――― 『俺には何もないから うらやましいよ』

―――― 『そこまで本気になれるものがあるって すげぇ幸せなことだもんな』


うるか (……あのときと、同じ。成幸は、いつだってあたしが本当にほしい言葉をくれるんだ)

うるか (あたしのこと、励まして、勇気づけて……元気をくれるんだ……)

うるか 「……ううん。なんでもない。えへへ、ありがとね、成幸」

成幸 「? ん、おう……」

うるか (……だから、好きだよ)

カァアアアア……

うるか (大好きだよっ、成幸!)


143: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:24:17 ID:UawLMgbI

………………

学園長 『皆様、本日の水泳教室は楽しんでいただけたでしょうか?』

学園長 『未来のトップアスリートを目指して、皆さんが本校に入学してくれるのを待っています』

滝沢先生 (……ったく。急に来たかと思えば、広報活動か)

滝沢先生 (熱心なことだね、ほんと。まぁ、学園のためといえば、何も言えないんだけどな)

学園長 『それでは、最後になりますが、本校が誇るトップスイマー、武元うるか選手によるデモンストレーションです!』

ワーワーワー!!! カッコイイーー!! カワイイー!! タケモトセンシュー!!! ガンバレーーー!!!

うるか 「やぁやぁー! どうもありがとうー!」

成幸 (ほんと、すごい人気だな、うるかの奴……)

うるか 「………………」

シーーーーン

成幸 (……真剣な泳ぎとなるや、表情が変わるんだもんなぁ)

成幸 (大人も子どもたちも、一斉に静かになった。その場を変えるような雰囲気を持っている、)

成幸 (ホンモノの、アスリート――――)

――――――ピッ…………パシャン……


144: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:25:07 ID:UawLMgbI

成幸 「………………」

ゴクリ

成幸 「……すげぇ」

葉月 「ふぁー……」 和樹 「はやいなぁ……」

成幸 (……それは、その場を支配するような泳ぎだった)

成幸 (競技会のときとは違う、ある種余裕のある伸びやかな泳ぎは、むしろ、)

成幸 (うるかの強さを誇示するかのようで……)

成幸 (そしてそれは、それ以上に……)

成幸 (……ただただ、美しくて)

成幸 (きっと、その場にいた誰もが、改めて垣間見ただろう)

成幸 (武元うるかというアスリートの、輝かしい未来を)


145: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:25:46 ID:UawLMgbI

………………

うるか 「……ぷはぁ」

うるか (まー、こんなもんかなー)

うるか (滝沢先生には、それなりに本気で泳げって言われたから、まぁまぁがんばったつもりだけど……――)

パチパチパチパチパチパチ!!!!

うるか 「……へ?」 (拍手……!?)

うるか (お、泳いで拍手されるって初めてだよ。なんか……恥ずかしいな……///)

うるか 「あっ……」

成幸 「……」 グッ

うるか (……成幸。ちゃんと見ててくれたんだ)

うるか 「………………」

うるか 「えへへっ……」


146: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:26:17 ID:UawLMgbI

………………

「すごいね、たけもとせんしゅ!」 「かっこいいね!」

「それなのにきれいでかわいくて、アイドルみたい……」

「ねえねえお母さん! わたし、たけもとせんしゅみたいになりたい!」

葉月 「……うーん。わたしも目指そうかな……」

和樹 「ならまずは水希姉ちゃん越えないとなー」

成幸 「………………」 クスッ (……なんだよ、もうできてるじゃないか、うるか)

成幸 (今日は、あんまりうまく教えられなかったかもしれないけど、それでも……)

成幸 (泳いだだけで、こんなに多くの子どもたちに、たくさんのことを教えられてるんだ)

成幸 (……なぁ、うるか。お前は俺みたいになりたいなんて、嬉しいこと言ってくれるけどさ、)

成幸 (俺は……)

グッ

成幸 (……お前みたいになれるように、がんばってるんだよ)

成幸 (お前は俺の、憧れる人の、ひとりだから)

おわり


147: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:26:58 ID:UawLMgbI

………………幕間  「逆」

水希 「………………」 ブスーーーッ

成幸 「? 水希の奴不機嫌そうだけど、どうしたんだ?」

花枝 「どうも、葉月と和樹に自分が教える前に他人に水泳を教えられたから、ご機嫌ナナメみたいなの」

成幸 「我が妹ながらめんどくさい奴だな……」 (なるほどなぁ……)

花枝 「成幸。逆、逆」

成幸 (……うーん。仕方ない。ちょっとご機嫌取ってやるか)

成幸 「……あーあ、葉月と和樹も少し泳げるようになったし、俺が泳げないままじゃ長男の沽券に関わるなぁ」

成幸 「水希、今度水泳教えてくれないか?」

水希 「!?」 パァアアアアアア……!!! 「プールデート!? それとも海デート!?」

水希 「とりあえず室内プールデートだね! 来年の夏は海に行こうね!!」

成幸 「……お、おう」

花枝 「我が娘ながら少し怖いわね……」 (ほんと、仲良いわね)

葉月 「母ちゃん、」 和樹 「逆、逆」

おわり


148: 以下、名無しが深夜にお送りします 2019/05/11(土) 23:27:36 ID:UawLMgbI

読んでくださった方ありがとうございました。





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