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春香「もしもの夢」

1: saga 2019/05/26(日) 21:20:35.04 ID:DSD3mREC0

※アイマス
※はるちは
※百合


3: saga 2019/05/26(日) 21:29:08.15 ID:DSD3mREC0

『もしも』の世界。

自分が、アイドルではなく、ただの高校生だったら。
そんな夢をみた。
普通に学校に言って。普通に友達と話して。普通に勉強して。
同じような想像をしたことはあったけれど、その夢は、妙にリアルだった。
現実の、アイドルの自分と比べるわけでもなく、ただただ楽しく、日常を送る夢。
目を覚ましても、いい夢だったなぁ、と思える夢で。


4: saga 2019/05/26(日) 21:29:35.99 ID:DSD3mREC0

……でも、そのことに気がついたのは、すぐだった。
 
普通の、っていうことは、いないんだ。出会わないんだ。
みんなとは。プロデューサーさんとは。

そして……もちろん、彼女とも。
アイドルだから、出会えたんだって。
 
そんな、『もしも』の夢だった。


5: saga 2019/05/26(日) 21:30:21.10 ID:DSD3mREC0

――――――

もう何回目かの、千早ちゃんの部屋にお泊りの日。私はこう言った。

「千早ちゃん、お酒飲もう」

「…………」

彼女は、突然何を言い出すのあなたは。という顔をしていた。まあ確かに、突飛すぎたとは思う。

「今、飲もうってわけじゃないよ。二人とも、二十歳を過ぎたらって話」

「ああ、そういう事」

千早ちゃんの部屋のテレビには、居酒屋でお酒を飲んでいる男の人が映っていた。日本酒のようだが、銘柄なんて見ても私には良く分からない。それでも、おいしそうで、楽しそうだということは伝わってくる。


6: saga 2019/05/26(日) 21:31:01.09 ID:DSD3mREC0

「食レポだったらお仕事でしたことあるけど、もし成人したら、こんなお仕事もできるのかなぁって」

「そうかもしれないわね。あ、もしかして、それに備えてって事かしら」

「備えて……うーん、それもあるけど……」

 これを言ったらまた、呆れた顔をするだろうか。いや、怒っちゃうかもしれない。

「ただ単に、酔った千早ちゃんが見てみたいだけ、なんて」

「…………」

 何を言ってるの、あなたは。という顔をしていた。とりあえず、怒らなくてよかった。
だって、見たいんだもの。仕方がない。仕方がないんです。身近の大人を見てると、お酒の席はとても楽しそうだから私たちも、ってことなんです。

……大変そうだな、ってとこも目にするけど。


7: saga 2019/05/26(日) 21:31:40.70 ID:DSD3mREC0

「まあ……確かに、私も気になるわね。春香が酔ったらどうなるか」

「でしょ? 気になるよね。どんな感じなのかなー。笑い上戸とか、泣き上戸とか、あれって本当にそうなるのかな」

そんな感じになってるあずささんや小鳥さんを見たことがあるけど、飲み物ひとつであんなに愉快になるなんて、飲んだことのない私にはわからない世界だ。もしかしたら、私と千早ちゃんも、同じくらいひどい……もとい、愉快なことになるのかもしれない。

「そうとも限らないわよ。実は、すごく強かったりして。いくら飲んでも、まったく酔わないとか」

「ええー? そうかな? それはないと思うなー。私なんて、多分一杯で酔っ払っちゃうよ」

「酔うのが早くても、そこからが長い人もいると聞いたことがあるわ。春香はそんなタイプかも……ふふ。もしかして、酔ってるほうが転ばないんじゃないかしら」

「ええ!?」

酔えば酔うほど強くなる、みたいな? そんなまさか。


8: saga 2019/05/26(日) 21:33:54.27 ID:DSD3mREC0

「冗談よ。いいじゃない、先におかしなこと言ってきたのは、春香なんだから」

「それは……そうですけども」

「これでおあいこよ。……はあ。二十歳を過ぎたらなんて言うけれど、その頃までこんな感じなのかしら」

 やれやれ、みたいな言い方をする。私はとしては、純粋な頃の悪戯心を忘れたくないだけなのに。たくさん後輩ができたと言えど、こういう気持ちを持ち続けるのは大切なことじゃないのかなと。私は将来も変わらず天海春香なのです。

「今から気が滅入るわね」

 う。ひどい。

「まあでも、将来っていうと……どうなってるのかしら、私たちは」

「とりあえず、アイドルはまだまだ辞める気はないよ! 千早ちゃんもそうでしょ」

「…………」

「……ん?」


9: saga 2019/05/26(日) 21:34:43.67 ID:DSD3mREC0

 気になる間があった。まさか、もう引退をかんがえているなんてこと―――

「あっ、いえ。そうじゃないわ。私も、まだ辞める気はないわよ」

「びっくりした……なら、さらっと答えてくれればいいのに」

「確かに辞めるつもりはないけれど……それは、私だけで決められるものじゃないから」

「それは……まあ、そうだけど」

「人気がなくなれば続けることは出来ないし、まして私は初めの頃、アイドルなんか、なんて考えだったのよ。なのに軽々しく、ずっとアイドルしているなんて、言えないんじゃないかと思って」

「…………」

千早ちゃんは、立派にアイドルしている。初めの頃は、なんて関係ない。今、千早ちゃんがステージに立って、輝いているなら。

「千早ちゃんが続けていたいって気持ちなら、きっと、将来もアイドルだよ」

「……。ありがとう、春香」

 うん。きっと大丈夫。こんな風に素敵な笑顔が出来るなら、千早ちゃんはアイドルだ。
私も、笑顔で返した。


10: saga 2019/05/26(日) 21:35:18.17 ID:DSD3mREC0

…………。

 というか、お酒の話から、ずいぶん真剣な話になってしまった。なんだろう、呑みの席じゃなくて、お酒の話題だけでも酒気にあてられるなんてこともあるんだろうか

「よし! 真面目な話はここまで! もうちょっと気軽な話にしよ!」

 将来について、私としては、もうちょっと軽いトークになるかと思ってた。
お酒が飲めるのようになったらー、とか。免許とったらー、とか。結婚はいつー、とか。
……いや、「将来」というから、堅くなってしまうんだろうか。だったら―――

「もしも」

「え?」

「もしも、の話なら」


11: saga 2019/05/26(日) 21:36:01.96 ID:DSD3mREC0

いつか来る未来ではなくて、あったかもしれない世界の話なら。何も気にせず話せるんじゃないだろうか。
例えば私が、もしも、お菓子作りの腕をさらに上げて、パティシエの世界に……とか?

「ああ、そういうこと。……確かに春香なら、そんな道もあったのかもしれないわね」

「でしょ? 高校が終わったら、海外留学して。修行を積んだら日本で出店……なんて、どうかな!」

「それは……先に、専門学校とかを目指したほうが、堅実じゃないかしら?」

 さすが千早ちゃん。もしもといえど現実的である。
 じゃあ、そんなリアリスティックな千早ちゃんのもしもは何だろうか。

「そうね、私は……何かしら。歌のこと以外となると、あまり思い浮かばないわね……」

「CAなんてどう? この前の衣装、すごくよかったよ」

 千早ちゃん自身も、いい経験になったと言っていたし、似合っていると思う。梅にウグイス。藤にホトトギス。青空にキサラギチハヤ。いや、深い意味はないけど。

「…………」


12: saga 2019/05/26(日) 21:36:51.44 ID:DSD3mREC0

 呆れているようです。おかしいな、上手いこと言ったと思ったんだけど。今度のMCでも試してみようかな?

「やめてちょうだい。それ、私も巻き込まれるでしょう」

 リスク回避宣言。先手を取られてしまった。
 というか、いまだに千早ちゃんのツボが掴めない。今のはNOなのに、これで? ってところでしゃべれなくなるくらい笑ったり。

「確かに、春香のMCで笑ったことはないわね」

「!?」

「冗談よ。……ふふっ、そんなに驚かなくても。今の顔のほうが面白かったわ」

 ひどい。いや、笑ってくれたならプラマイゼロだろうか。


13: saga 2019/05/26(日) 21:37:22.42 ID:DSD3mREC0

「……ああ、でもやっぱりわかったわ。私たち、もうアイドルやめられないわね」

「え? なんで?」

「だって、もしもの話をしてたはずなのに、次のステージのMCのこと考えてたのよ」

「……あ。言われてみれば」

「でしょう? 職業病って、こういうことなのかしら。お互い、もう普通の高校生には戻れないわね。ふふ」

 …………。普通、の。
 唐突に、今朝の夢を思い出した。


14: saga 2019/05/26(日) 21:38:36.62 ID:DSD3mREC0

「……どうしたの? 急にだまって」

 千早ちゃんは、首を傾げている。

「私……アイドルじゃなかったら……みんなと、会えなかったんだなって」

「……? まあ、そうね」

「そう考えると……その……」

 アイドルだから、出会えた。じゃなくて。

 アイドルじゃなかったら、出会えなかった。と、考えてしまった。
 もし私が歌うことが好きじゃなかったら。もし私が歌うことよりも好きなことをみつけたら。もし私がプロデューサーさんに見つけてもらえなかったら。もし私が765プロに入れなかったら。
 いや、765プロに入れたとしても、みんながいなかったら。

 ……彼女が、いなかったら。
 そんなもしもを考えると、今が、この時間が、次の瞬間にはすべてなくなってしまっているんじゃないかって。

「……そんなことを、考えちゃって。あはは」

「…………」


15: saga 2019/05/26(日) 21:39:25.07 ID:DSD3mREC0

 空笑いなのは、伝わっているだろう。
千早ちゃんは、しばらく黙っていた。

……けれど。

「……まあ、なんでもいいじゃない。もしも、なんだから」

「…………え?」

「もしものことで不安になるのは、私もよ。でもそれは、未来のことだわ。これから起こることの話。春香のそれは、過去のことについてのもしもでしょう?」

「過去のことで後悔はすれど、それはもう終わったこと。大事なのはこれからのこと。未来をみて歩こうって思わせてくれたのは、春香たちのおかげよ」

「…………」

 千早ちゃんは、呆れているわけではなく。かといって怒っているわけではなく。
 真剣で。優しく。


16: saga 2019/05/26(日) 21:40:18.77 ID:DSD3mREC0

「アイドルが続けていられるかは……さっき春香に励まされたけれど、正直今でも不安よ」

「……うん」

「でもこれは、もしもの世界の想像なんだから、自分に都合がよくていいんじゃないかしら? それに、軽い話って言ったのは春香のほうよ」

「あ……うん。そうだったよね」

「それに……これでも私は、春香のことを信頼しているのよ」
「信頼?」

「ええ」

 千早ちゃんは、まっすぐ私の目を見て。


17: saga 2019/05/26(日) 21:40:47.79 ID:DSD3mREC0

「あなたなら、どんな『もしも』でも、必ず私に声を掛けてくれるって」

「――――――え?」

「『もしも』私がアイドルを目指してなくても。『もしも』私が……その、CAを目指していても。あなたはきっと、私を見つけてくれるんじゃないかしら、って。そう信じているの」


18: saga 2019/05/26(日) 21:42:00.50 ID:DSD3mREC0

……我ながら、ずいぶん夢の話に引っ張られて、ネガティブになっていたみたいだ。

そうだった。たかが、夢なんだから。しかも、悪夢じゃなくて、楽しい夢ときてるんだから。だったらあれこれ悩まず、ただ楽しかったで済ませばそれでよかったのに。
目を覚ませば、みんなが。千早ちゃんが、待っているんだから。
 だから、この先。どんな『もしも』が待っていたとしても。
 
 きっと、私は―――


「というか……いまさら『もしも』他人だったら、なんてこと考えられないくらいには、長く付き合っていると思うんだけれど。どうかしら? 春香」


 ……その言葉に、私は笑顔で返した。


19: saga 2019/05/26(日) 21:42:53.16 ID:DSD3mREC0

――――――


―――その夜も、夢をみたけれど。内容まではよく覚えていなかった。

でもそれが、すごく楽しい夢だったことだけは覚えている。

まあ、おそらくは、二人でお酒でも飲みながら。

あーだこーだ話をしているだけ。

そんな、ただの。
なんでもないような、『もしも』の夢だったのだろう。


20: saga 2019/05/26(日) 21:45:05.73 ID:DSD3mREC0

おわりです。

ありがとうございました。





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