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楓「飴の降る町で」

1: ◆uCbLPg/WnY 2015/02/16(月) 09:21:48.19 ID:sDZA5Cqh0

※地の文あり


2: ◆uCbLPg/WnY 2015/02/16(月) 09:22:43.49 ID:sDZA5Cqh0

「プロデューサー、今日は飴が降っていますね」

窓の外、降る飴は色とりどりに輝いている。

ストロベリーの赤、メロンの緑、レモンの黄色。

「ええ、雨が降ってますね」

窓の外を見て、そう言って返す貴方の背中の猫はどこか寂しそうで。

思わず口をついて出たこと葉は、猫へひらひらと舞い落ちる。


3: ◆uCbLPg/WnY 2015/02/16(月) 09:23:17.46 ID:sDZA5Cqh0

「飴、お嫌いなんですか?」

私は彼の鏡中を汲み取る事はできない。くすんでいるから。

けれど、貴方は上下に裂けた背中で語る。

「雨、嫌いなんです」と。

「どうしてですか?」と尋ねるより早く、貴方の背中は口を紡いだ。

ここから先は、キャッチボールで。


4: ◆uCbLPg/WnY 2015/02/16(月) 09:24:39.13 ID:sDZA5Cqh0

「どうしても、気分が高揚しなくて」

「紅葉しないんですか」

確かに球は青々とした森の奥から私めがけて飛んできた。

外に降る飴とは大違い。緑一色。

「楓さんは、雨、好きなんですか?」

「私は……嫌いではない、ですね」

町が虹色に染まる幻想的な光景は、一度見たら嫌いにはなれないだろう。


5: ◆uCbLPg/WnY 2015/02/16(月) 09:25:33.29 ID:sDZA5Cqh0

「そう、ですか」

私が投げ返したボールは森の奥から暫く返ってはこなかった。

そうして、事務所の机が音という傷で一杯になった頃。

「……少し、昔話を聞いてくれませんか」

森の奥から飛んできたボールはふらふらふらふら、

躊躇いながらも私の足元へ着地した。

「聞かせてください。プロデューサーの、昔話」


6: ◆uCbLPg/WnY 2015/02/16(月) 09:26:23.66 ID:sDZA5Cqh0

私はそれを優しく手に取ると、今度は投げ返すでなく、森の奥へ足を踏み入れる。

彼は、それを望んでいるはずだから。

森の中、プロデューサーを見つけて隣に座り、ボールを手渡した。

「……俺、この仕事を始める前、彼女がいたんですよ」

しかし、私に返ってくるはずのボールは、大きく跳ね上がって天井に突き刺さった。

斜め上、かしら。

「……そう、なんですか」


7: ◆uCbLPg/WnY 2015/02/16(月) 09:28:02.43 ID:sDZA5Cqh0

「驚きましたか」

「ええ、驚きました」

実はそこまで驚いてはいなかった。

彼の愛用しているマグカップには、彼しか持っていない鍵がかかっているから。

他の誰も、開けられはしないから。

「その彼女に……こんな雨の日に、振られまして」

「降られてしまったんですか」

きっとそれは通り飴。

降り始めは凄まじくて、色んな味が混ざり合って、美しいけれど。

降り終わってみれば、残っているのは汚い色の、美味しくない飴溜り。


8: ◆uCbLPg/WnY 2015/02/16(月) 09:29:23.84 ID:sDZA5Cqh0

「……俺が、悪いんです」

「プロデューサーは、悪くありません」

だって、通り飴を予想できる人なんて誰もいないのだから。

傘を持っていなくて降られるのは、当然だから。

「いいえ、俺が……」

それきり、プロデューサーは沈み込んでしまった。

ずぶずぶと、私の視界から彼は消えていく。

引き上げなければ、きっと自然に浮き上がってくるのを待つしかない。


9: ◆uCbLPg/WnY 2015/02/16(月) 09:30:17.94 ID:sDZA5Cqh0

「お散歩、しませんか」

だから私は引き上げた。精一杯の力で。

「……濡れますよ?」

「構いません」

「風邪、引きます」

「大丈夫です。惹きませんから」

どうも風邪さんは、私がタイプではないらしい。

一度も私に惹かれた事がないというのは、それはそれで寂しい。


10: ◆uCbLPg/WnY 2015/02/16(月) 09:31:22.33 ID:sDZA5Cqh0

「……仕事が」

「終わってますよね」

知っていました。

私が話しかけた時から、貴方は銃声を鳴らしていない。

「……少しだけですよ」

彼は錘のついた腰を持ち上げる。

まるで事務所はムショのよう。


11: ◆uCbLPg/WnY 2015/02/16(月) 09:32:41.38 ID:sDZA5Cqh0

私の足を、鎖が縛る。私が誘ったはずなのに、思うようには進めない。

きっと、伝えられること葉は少ないから。

「では、生きましょうか」

それでも私は歩かなくてはいけない。無期限の刑期は、今破られたから。

「……はい」

牢屋の扉を開けて、彼は外へ出て生く。

私は、その後を憑いていく。


12: ◆uCbLPg/WnY 2015/02/16(月) 09:33:48.44 ID:sDZA5Cqh0

幽霊のようだ。私は。

見えもしないものを見て。見えるはずのものを見ないで。

「どれが楓さんの傘ですか?」

「私の暈はこれです」

バッと彼の前で暈を開く。

飴色の空に、金環日食が咲いた。

「えっと、俺の傘は……」

「暈、一つでいいと思います」


13: ◆uCbLPg/WnY 2015/02/16(月) 09:35:43.96 ID:sDZA5Cqh0

「え、いやでも」

「二人で入ればいいじゃないですか。哀愛暈、です」

そう、この暈に入れるのはお互いに辛い想いを持っている人だけ。

愛し、哀され。人々はできてる。

「……楓さんが、いいのなら」

「ええ、構いません」

そっと、彼は私に実を寄せた。

彼は熟した林檎。私はまだ青い果実。

どうも、相反して赤くなってしまいそうだ。


14: ◆uCbLPg/WnY 2015/02/16(月) 09:36:33.95 ID:sDZA5Cqh0

「……」

飴の降る町を、二人、哀愛暈で歩いていく。

ぽつ、ぽつりと。

飴の音だけが聞こえてくる、静かな喧騒。

「……私は」

「へ?」

最初に口を開かせたのは、私。

「私は、誰かと付き合った事はありません。ですがプロデューサーが悪いとは……」

「……いいえ、俺が悪いんです。気にしないでください。俺が、この仕事に熱心に……ああいえ」


15: ◆uCbLPg/WnY 2015/02/16(月) 09:37:52.60 ID:sDZA5Cqh0

そこで彼はこと葉を一旦切り、二つに分かれたこと葉を見やった。

どちらを放すべきか、悩んでいるようだ。

「この仕事を熱心にやりすぎたのが、問題だったんです」

「……プロデューサーの仕事を理由に、降られたんですか」

「……ええ」

当たり前だ。熱くなりすぎた心は、水で冷やさなければならない。

空から降った飴は、さぞ、冷蔵庫でキンキンに冷やされていたのだろう。


16: ◆uCbLPg/WnY 2015/02/16(月) 09:40:08.16 ID:sDZA5Cqh0

「……もう一つ、理由、ありますよね」

「え……」

ただ、貴方が放したこと葉は、私の欲しかった方ではなかった。

私が欲しかったのは、貴方が口に押し留めたもう一つのこと葉。

「それは……」

口篭る。

もごもごと、こと葉を歯で磨り潰して、飲み込もうとしているようで。

良薬を飲んでいるような苦々しい表情で、貴方は立ち竦んだ。


17: ◆uCbLPg/WnY 2015/02/16(月) 09:41:12.72 ID:sDZA5Cqh0

「……まだ、言えません」

「癒えませんか」

彼の心に残った傷は、そう簡単には治らないようで。

いいえ、治せないようで。

「ええ……今は、まだ」

「では……待っていますから。いつか、話せる日を」

「……はい」

彼のその返事に、私は微笑んだ。


18: ◆uCbLPg/WnY 2015/02/16(月) 09:43:43.12 ID:sDZA5Cqh0

「あ……」

ふと、傘を下げると雨はすっかり止んでいた。

空には、お日様が顔を出している。

「雨、止みましたね」

「そうですね……じゃあ、事務所に戻りましょうか」

「はい」


19: ◆uCbLPg/WnY 2015/02/16(月) 09:44:35.96 ID:sDZA5Cqh0

 
次に、飴が降るのはいつになるのだろう。

きっとその次の飴が降る日に、貴方は今日飲み込んだこと葉を放してくれるだろう。

顔を出したお日様は「残念だったな」と言わんばかりに笑い。

私の心は、混ざり合った飴たまりのように、複雑だった。



終わり


20: ◆uCbLPg/WnY 2015/02/16(月) 09:46:02.56 ID:sDZA5Cqh0

他人の見る風景を言葉で表す事はとても難しい事だと学びました。

一応、誤変換はありません。『こと葉』なども全て意図的なものです。

それでは、ありがとうございました。





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