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タツマキ「サイタマ、抱っこして」サイタマ「ん? ああ、いいぞ」

2019/10/18 17:04 | ワンパンマン | コメント(0)
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/10/14(月) 23:52:55.97 ID:XuhOLFIKO

本作品にはweb版のネタバレが含まれておりますので未読の方はくれぐれもご注意ください。

それでは以下、本編です。


2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/10/14(月) 23:55:35.97 ID:XuhOLFIKO

「サイタマに会いたいわ」

姉が突然そんなことを言い始めた。
普段から何を考えているのかわからない人だが、それでも妹として推察してみる。

先日、私と姉は大喧嘩を繰り広げて、そしてサイタマもその騒動に巻き込まれた。
いや、巻き込んでしまったと言うべきか。
彼には随分と迷惑をかけてしまった。

最終的に姉は私の意思を尊重してくれた。
独りでは弱く、何も出来ない私に対して他人を切り捨てろと主張していた姉が折れた形だ。
恐らく、サイタマとの戦闘中のやり取りで思うところがあっただろう。つまり彼のおかげだ。

A級ヒーローとなったサイタマこと、通称『ハゲマント』はS級ヒーローである私の姉、『戦慄のタツマキ』に対して一切物怖じせずに立ち向かい、互角以上の立ち回りを見せて、私達の姉妹喧嘩を仲裁してくれた。全ては彼のおかげだ。

超人的な姉とは違い、私は凡人だ。
『地獄のフブキ』などと大層な呼ばれ方をしているが、実力はB級止まりでしかなく、私だけでは姉の言い分を曲げることは不可能だった。
サイタマの言葉を借りるならば、彼と『知り合い』になっていたおかげで辛くも難を逃れた。

今回の一件で自らの弱さを改めて自覚したが、私は自分の方針に自信を持てた。
これからも他人との繋がりを大事にしていく。
無論、それは私自身の強さとは言えない。
他ならぬサイタマにも以前こう言われた。

『独りで戦わないといけない時が来る』と。

だから私はきっと強くはなれないだろう。
しかし、それでもいいと今では思う。
別に、私がヒーローになれなくてもいい。

悪に立ち向かうヒーローの手助けがしたい。

今後はそうした形でサポートをしていく。
運良く知り合えた、本物のヒーローの為に。
だからこそ、姉と彼を会わせるのを躊躇った。


3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/10/14(月) 23:58:15.16 ID:XuhOLFIKO

「リベンジするつもり?」

恐る恐る、姉の真意を問いただす。
すると姉であるS級ヒーロー、タツマキは。
キョトンと首を傾げて、ポカンと口を開いた。

「はあ? そんなのに興味ないわ」

心底意味がわからないといった表情。
返答次第によっては戦闘も覚悟していた。
ひとまず、難関を乗り越えてほっと安堵する。

「じゃあ、どうして彼に会いたいの?」
「またぎゅってして欲しくて」
「は?」

姉は今、なんと言った?
理解が追いつかない。
あの姉が、S級ヒーローであるタツマキが。
よりによって、あんなハゲに抱かれたいなど。

「どうしたの、フブキ?」
「えっ? 今、ちょっと幻聴が聞こえて」

そうだ、今のはきっと幻聴だ。
もしかしたら姉の新たな能力かも知れない。
化物じみた姉ならば、なんら不思議ではない。

やはり、油断ならぬ存在だと気を引き締めて。

「実はあの日、あの男に抱きしめられた感覚が忘れられなくて最近寝つきが悪いのよ」
「そんな馬鹿な!?」

二度に渡る幻聴に頭を抱えた。
いや、姉の口の動きもシンクロしていた。
幻聴のみならず、幻覚まで操るとは。
我が姉ながら、まさに『戦慄』である。

「ねえ、フブキ。お姉ちゃんが頼んでるんだけど、もしかしてあんた、私の邪魔すんの?」

ぶわりと、身の毛がよだった。
髪のないサイタマには味わえない感覚。
姉の周囲の物体が浮遊していく。
絶望的なまでの力量差に、死を覚悟する。

姉はお冠だ。
クルクルの髪がさらにぎゅるぎゅる巻かれ。
じっと見ていると、目が回りそうだった。


4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/10/15(火) 00:00:04.55 ID:0Z0Ay6CEO

「フブキ、サイタマに会わせなさい」

どうやら、幻聴や幻覚ではないらしい。
姉は本気で、サイタマに会いたいのだ。
会って、抱きしめて欲しいのだと悟り。

それはなんだか、嫌だと思った。

「……彼は私の恩人よ」
「そんなの関係ないわ」
「彼は私の仲間だから」
「ただの知り合いでしょ?」
「お姉ちゃんよりは付き合いが長いわ」

すると姉はふっと鼻で嘲笑った。

「あんた、あいつに抱かれたことあんの?」

カチンときた。
思わず、地獄嵐を発動する程に。
しかし、姉は当然のように無傷であり。

「あいつの力は、こんなもんじゃなかった」

力の奔流をまるでそよ風のように受け流して。

「信じられる? この私が動けなかったのよ」

その時のことを思い出すように身を掻き抱き。

「私はもう一度、あの感覚を味わいたい」

気づけば姉は私の眼前に佇み、そして命じた。

「サイタマに会わせなさい」

頭を鷲掴みにして、目を血走らせながら迫る。

「お姉ちゃんの一生のお願いよ」

不意に、まるで少女のように頬を染められて。
ズルいと思った。妹のものに手を出すなんて。
それでも姉の懇願に負けて、私は渋々頷いた。


6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/10/15(火) 00:04:00.68 ID:0Z0Ay6CEO

ピンポーン。

「ん? フブキ氏、どうかしたか?」

呼び鈴を鳴らすと、強面の男が現れた。
彼はキング。S級ランキング7位のヒーローだ。
やはり強者同士引かれ合うのか、もっぱらサイタマと行動を共にしていることが多い。
圧倒的な強者のオーラに冷や汗を流しつつ、それでも臨戦態勢となったキング特有の『キングエンジン』が鳴り響いていないことに胸を撫で下ろし、敵対視されていないことを再確認しながら、今や私は彼とも知り合いであることに自信を持って、家主の在宅を確認する。

「キング、サイタマ居る?」
「サイタマ氏なら俺と一緒にゲームしてるぞ」
「ちょっと会わせたい人が居るんだけど」
「あたしよ」
「えっ!? タ、タツマキちゃん……だと?」

ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ

不味い、キングエンジンが鳴り出した。
姉が現れた瞬間、臨戦態勢となったキング。
なるべく、迷惑はかけたくないのだけど。
やはり、強すぎる力は災いの元。
戦いは避けられないのだろうかと思いきや。


7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/10/15(火) 00:05:10.20 ID:0Z0Ay6CEO

「びっくりしたぁ! なんかいつもと違うね」
「そう? まあ、キングの度肝を抜いたのなら悪い気はしないわね。フブキの化粧のおかげね」

キングエンジンが止む。なんとか乗り切った。
恐らくキングは様子を見るつもりだ。
たしかに私はサイタマに会う前におめかししたいと駄々を捏ねる姉に化粧を施していた。
しかし、それはあくまで建前であり、一応身なりを整えてきたことで警戒を緩めたのだろう。

その証拠に、キングは何気ない口調で。

「じゃあ俺は何か飲み物でも買ってくるから」

そう言って、部屋から出ようとしている。
室内に固まらず、部屋の外で待機するのだ。
そうすることによって全滅を避けるつもりだ。
姉であるタツマキの能力を警戒している。

「ジェノス氏も付き合ってくれ」
「はい、わかりました」

同じくS級のジェノスも連れ出した。
彼はサイタマの部屋に居候しているらしい。
もっとも本来の彼の住処は隣の部屋だ。
要はボディガードなのだが敢えて連れて行く。
そうすることでこちらの出方を見るつもりだ。

きっと姉がサイタマを害そうとする素振りを見せたその瞬間、遠距離からジェノスの砲撃とキングの煉獄無双爆熱波動砲によって我々は消し炭となるに違いない。もう帰りたいよぉ。


8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/10/15(火) 00:07:43.29 ID:0Z0Ay6CEO

「久しぶりね、サイタマ」
「ん? なんだ、フブキの姉ちゃんか」

サイタマは自室で寛いでいた。
いつものダッサいヒーロー服ではなく。
同じくダッサいジャージ姿で姉を見るなり。

「お? 孫にも衣装だな!」
「私は28歳よ」

着飾った姉を見て感心した様子。
言葉のチョイスに難があったが、姉は上機嫌で自らの巻き毛をくるくると弄んでいる。
これならすぐに戦闘が始まることはあるまい。

とはいえ、油断なく状況を見守った。

「んで、どうしたんだよいきなり押しかけて」
「その前にひとつ聞かせなさい」
「ん? なんだよ、藪から棒に」
「あんた、最近寝つきが悪くない?」
「いや? 全然。毎晩爆睡してるぞ」
「……そう」

いけない! 姉の巻き毛が竜巻状に!
イラっとしたのが見てわかる有様だ。
慌てて宥めようとしたが、時既に遅く。

「ふうん、そう。あたしが毎晩寝れないってのに、あんたはグースカ安眠してたってわけね」
「ちゃんと寝ないと背伸びないぞ」
「ふん。余計なお世話よ」

サイタマが更に火に油を注いでいく。
これにはもうダメかと思った。万事休すだ。
ジェノスとキングに消し炭にされる前に、この部屋から脱出しようと窓から飛び降りる間際。

「サイタマ、抱っこして」
「ん? ああ、いいぞ」

思わずズルッと窓から落ちそうになった。


9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/10/15(火) 00:09:39.74 ID:0Z0Ay6CEO

「あんた、背が小さい女は嫌い?」
「一応ヒーローだから子供は嫌いじゃない。もちろん、可愛くないガキはぶっ飛ばすけどな」
「私は可愛いってこと?」
「可愛いんじゃねえか? よくわからんけど」

なんだこれは。
私は現在、一体何を見せられてるんだ。
サイタマの膝の上に乗り、抱かれる姉。
それはまるで、兄妹のように仲睦まじくて。

ふと、怒りにも似た何かが胸の内に渦巻いた。

「もっとぎゅっとして。この前みたく」
「また変態扱いすんなよ?」
「お互いに合意の上なら問題ないわ」

何が問題ないだ。
大ありだ。絵面的に完全に犯罪である。
警察を呼ぶべきだろうか。
誰でもいいからこの2人を罰して欲しい。

「じゃあ、いくぞ」
「うん……きて」
「マジ、縛り!」
「ぐふぇっ!?」

ぶちゅっ!

おや?
どうやら天は、私の味方らしい。
サイタマに抱きしめられた姉が糞を漏らした。
どうやら、力加減を間違えたらしい。
なんにせよ、いい気味だ。ざまあみろ。

ああ、気分が良い。愉悦が湧き上がっていく。

「フハッ! フハハハハハハハハハ……ッ!?」

高らかに嗤い、私が怪人になりかけたその時。

ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ

「サイタマ氏が幼女の糞に塗れているだと」
「ご、ごめんなさい」

いつの間にか、背後にはキングが佇んでいて。
鳴り響くキングエンジンで臨戦態勢だと悟り。
私は自らの監督不行き届きを、彼に謝罪した。


10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/10/15(火) 00:11:56.26 ID:0Z0Ay6CEO

「先生、まだ臭いますね」
「まあ、まだ子供だし仕方ねえよ」

あの後、漏らした姉は窓から飛び出した。
その去り際に、初めて姉の涙を見た。
しかしジェノスとのやりとりを見る限り、サイタマはそこまで気にしていないらしい。
あとで姉を慰めてあげようと、心に誓った。

「もし迷惑じゃなかったら、またお姉ちゃんを呼んでもいい? ちゃんと謝罪させるから」
「たかが糞で謝罪なんていらねえよ」
「では、お言葉に甘えて俺も……」
「ジェノス、お前が漏らしたら出禁だからな」

サイタマは基本的に何事にも動じない男だ。
いや、些細なことで動揺することは多いのだが、ここぞという時はどっしり構えている。

もしも膝の上で糞を漏らされても動じないことがヒーローに必要な資質なのだとすれば、やはり私には到底なれそうもないなと、思ったが。

「いや、サイタマ氏。流石に糞は無理だろ」
「そうか?」
「ああ、糞を漏らしているタツマキちゃんを抱きしめているサイタマ氏を目撃した瞬間、思わず友達やめようかと思ったよ」
「そんなに悪いもんじゃなかったけどなぁ」

良かった。キングも私と同意見らしい。
キングほどのヒーローが味方なら心強い。
一概にヒーローと言っても在り方は様々だ。
私は私なりのヒーロー像を追っていこう。

とはいえ、やはり多角的な見地は重要だ。


11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/10/15(火) 00:14:29.22 ID:0Z0Ay6CEO

「私にもさっきの技をかけて欲しい」
「は? やめとけって、糞じゃ済まないぞ。お前が俺のマジ縛り喰らったら内臓が出ちまうぜ」
「マジじゃなくていいから、優しくお願い」
「それなら糞くらいで済むかもな」

サイタマが両手を広げる。
私は特に躊躇うことなく彼の胸に飛び込んだ。
超合金クロビカリのように逞しくもなく。
キングエンジンが鳴り響くこともないけれど。

それでも誰よりも安心出来るだろうと思った。

「普通、縛り」
「んあっ!?」

ぶりゅっ!

「フハッ!」

糞をぶち撒け思わず嗤った。
何が誰よりも安心出来るだ。
これのどこが優しい抱擁だ。
凡人の私には強すぎる腕力。

ぶりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅぅ~っ!

「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

それでも、どうしてだろう、私は幸せだった。
苦しくて辛いのに、こんなに満ち足りている。
嗤いながら笑いながら、涙を流して泣き笑う。

ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ

「フブキ氏は頭がおかしくなったのか……?」
「でも、サイタマ先生も愉しそうですよ」

狂ったように嗤う私をキングは危険視したらしくキングエンジンを鳴り響かせるが、ジェノスの言う通り当事者であるサイタマは事ここに及んでも全く動じておらず。

「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

私と一緒に高嗤いをする彼を見て。堪らなく。
ああ、好きだなと感じて。好きだと自覚して。
やっぱり姉には取られたくないとそう思った。


【ウンパンマン】


FIN





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