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【少女終末旅行】つながり

2017/12/08 13:05 | 少女終末旅行 | コメント(0)
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/08(金) 01:14:33.03 ID:dW68xNSs0

少女終末旅行です。地の文ありです。


2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/08(金) 01:15:46.69 ID:dW68xNSs0

がたごと、がたごと。ケッテンクラートは走る。

じゃりじゃり、じゃりじゃり。ガラスを踏んだ音がする。

かたかた、かたかた。詰んだ荷物の音がする。

びゅーびゅー、びゅーびゅー。建物の間を風が吹き抜ける音がする。

ぐーぐー、ぐーぐー。ユーの眠る音がする。

がたごと、がたごと。塔に向かって。

じゃりじゃり、じゃりじゃり。入り組んだあてのない道を行く。

びゅーびゅー、びゅーびゅー。向かい風は私の服に突き刺さる。

ぐーぐー、ぐーぐー。ユーはいつも通りだ。

がたごと、じゃりじゃり、びゅーびゅー、ぐーぐー。

がたごとじゃりじゃりびゅーびゅーぐーぐー。


3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/08(金) 01:16:46.43 ID:dW68xNSs0

無数に連なる廃墟は、私とユーと、この音達を吸い込んでは、無に変える。

音は無音になり、私とユーは、存在を廃墟と同じ、空虚に変える。

それがいつも通り、普段の日常。なんて、言ったらいいんだろう。本風に言い換えるなら。

言い換えなければ、バカみたいに寒い風を、私一人が耐え忍んで、ケッテンクラートを運転する。

その後ろで、私のことなんか気にしないで、バカみたいに眠るユーと、揺れる荷物、履帯が踏み潰すガラスの音と、じゃりの音。

これがいつも通り、普段の日常。

がたごと、じゃりじゃり。びゅーびゅーぐーぐー。

がたごとじゃりじゃり、びゅーびゅー、ぐーぐー。

がた、ごと、じゃり、じゃり、びゅー、びゅー、ぐー、ぐー。


4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/08(金) 01:18:01.90 ID:dW68xNSs0

私が読んだ本に書いてあった。昔の人は、音楽を聴いて、リラックスしてたって。

リラックスすると、段々呼吸はゆっくりになって、頭が回らなくなって、しまいには体は風邪をひいたみたいに、熱を帯びるらしい。そして眠くなる。

こうとも書いてあった。

昔の人は、音楽を聴いて、高翌揚していたって。高翌揚すると、段々呼吸は荒くなって、頭の回転が速くなって、しまいには体は風邪をひいたみたいに、熱を帯びるらしい。そして眠くなる。

私はため息をついた。廃墟が吸い込む前の音達を間近で受ける私には、その大昔の人たちの教えをしっかりと感じている。

がたごとじゃりじゃりびゅーびゅーぐーぐー。

もしかしたら、ユーもその教えを身に受けているから、いつも眠っているのか。そう考えると妙に納得できた。でもムカつくのはムカつく。

がたごとじゃりじゃり、びゅー、びゅーぐーぐー。

眠い。眠いけど、寝たら建物にぶつかる。後々のことを考えると、そっちの方がもっと面倒だ。

がたごとじゃり、じゃり、、びゅーびゅーぐーぐー。


5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/08(金) 01:19:08.24 ID:dW68xNSs0

寒い。

がたごとじゃりじゃり、、びゅーびゅー、ぐーぐー、、。

眠い。

がたごと、、、じゃりじゃり、、びゅーびゅー、、ぐー、、ぐー、、、、。

がた、、、、ぐー、、、。

、、じゃ、、、びゅー、、。

、、、。

私は、落ちる。眠りの、底へ。深く、深く、誘われていく。

ユーリ「ねぇちーちゃん」

チト「.....うぁ!?」

急に現れたユーの声に私は驚いて、思わずブレーキペダルをおもいっきり踏んだ。

それに驚いたユーも大きな声をあげ、私のブロディヘルメットにぶつかると、鈍い音を響かせる。

ごつんと、新しい音は廃墟が吸い込んで、また無に変えた。

ユーリ「もうちーちゃん!危ないって!」

チト「....ユーだって急に大きな声、出さないでよ」

それでなに。と私は振り返って言うと、ユーは空を見上げて、手を伸ばした。白い吐息と一緒に言葉が紡がれる。


6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/08(金) 01:19:52.20 ID:dW68xNSs0

ユーリ「雪、降ってきそーだなーって思って」

私も空を見た。灰色の空模様に、灰色の雲がもくもくと現れ始め、すぐにでも雪が降り始めそうだった。でも今に始まったことじゃない。

チト「いつも降ってるようなもんだから、気にしなくてもいいだろ」

いつも空から落ちてきては、降り積もる雪。年がら年中降っていて、寒くて仕方ない。

ユーリ「危機回避だよちーちゃん。風邪ひいたら死んじゃうし、早め早めの対策を....」

珍しく真面目な顔をしたユーはそう言った。そして偉そうに腰に手を当て鼻を鳴らした。

チト「....まぁそれもそうだな」

その通りだと思った私は、ユーの意見に珍しく従うことにした。

私はケッテンクラートのスロットルを少しだけ強める。

かといって、そんなに速く走らせるわけじゃない。無駄に燃料を消費させるのと、その場しのぎの暖をとることの釣り合いがとれないからだ。


7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/08(金) 01:21:03.67 ID:dW68xNSs0

ユーが鼻歌を始めた。

がたごと、ふーんふふーん、じゃりじゃり、ふーーんふーん、かたかた、ふーん、びゅーびゅー、ふーーんふん、ぐーぐー。

廃墟は無機質な物の音を吸い込んでも、ユーの出す間抜けで、ばらばらなリズムは吸い込めないみたいだ。

鼻歌で空虚は存在を掴み取り、灰色は青色に。そんな色のついた鼻歌は、形になって空に上がっていっては、色んなところに存在をくっつけている様子が想像できたからだ。

右に左に、時に行き止まりを後退したり、階段をゆっくりのぼる。

ここはどう、と聞いては、違うと言われ、あっちはよさそうと言うと、それも違うと言われる。

あっちにこっちに、存在打ち付ける。

灰色にくすんだ外壁は虹色に。

どんよりとした空模様は真っ青に、そして赤と緑の雲が流れて行く。

車輪が踏みつけた跡は黄金色に。

私たちの進む道は、ただの無色。だけど私たちが通った道は色とりどりの色模様が広がる。そんな想像。

ユーリ「ちーちゃん!あそこがよい!」

チト「わかった」


8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/08(金) 01:22:01.56 ID:dW68xNSs0

私たちが進む先にある、ぽつんとたたずむプレハブ小屋の小さな建物。

その小屋の前には丸い、剥がれた赤色に挟まれた白の線が施された、看板みたいなのが立っていた。

ユーリは私のヘルメット叩いてそこがいいと言った。

やかましく頭を叩くから、仕方ないけど、見るからに頼りない、壊れてしまいそうなその小屋の隣にケッテンクラートを止め、私は中を覗く。

中を覗く、と言ってもその小屋は入り口を大きく解放していた。

解放していたというか、扉はなく、誰でもすぐに入ることができるようだった。

中には大きな椅子があった。破れていて、同じく赤色だった赤は、くすんでいた。

ユーリ「どうよちーちゃん。風情があるでしょ」

チト「まぁ、もう降りそうだし、ここでいいか」

私は椅子に腰を下ろした。柔らかかったけど、埃が舞って咳き込んだ。

そしてユーも私の隣に座った。いちいち動作が大きくユーだ。もちろんおもいっきり飛んで座ったから、埃が舞い、私はまた咳き込む。


9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/08(金) 01:22:53.84 ID:dW68xNSs0

チト「....おい」

ユーリ「ごめんごめん!いやーそれにしてもいいところ見つけたねぇ」

チト「....そうだな」

ぐーぐーと、ユーのもう一つの音がなった。いびきと同じこの音は、腹が減ったという音だ。ユーは私を見つめると。

ユーリ「ちーちゃんお腹すいた」

そう言い立ち上がる。そして歩き出してケッテンクラートのがある方へ向かって行く。

どうせやることなんて、わかってる。でも私もユーと同じでお腹が空いている。

いつもの空腹は、いつもより空腹だ。だから止めない。

戻ってきたユーはレーションの入った袋と、カメラを持ってきて、にこにこしている。

チト「なんでカメラがいるんだよ」

ユーリ「なんとなく?カメラが私を呼んでいたのさ」

自分でも疑問だったくせに、適当に理由をつけて納得したようで、満足そうだ。

そしてゆっくりと私の隣に座ると、レーションの入った袋を開ける。

ぽつり、ぽつり。新しい音。でも聞き覚えのある音だ。

ぽつり、ぽつり。ぐーぐー。


10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/08(金) 01:23:35.17 ID:dW68xNSs0

チト「雨だ」

ユーリ「あれぇ雪じゃないの?」

チト「雨だな」

ユーリ「そのうち雪に変わる。私の勘がそう言っている」

はいちーちゃんと言って私にレーションを渡した。

魚のレーション。青空の下、冷たい川辺で洗濯をした時の、あの魚を真似た、レーション。

残念だけど味は魚味じゃなくて、レーション味。

砂糖の甘さだけで素っ気なく、魚を初めて食べた時の、あの味には遠く及ばない。

その魚のレーションの頭の部分を口に咥え、ウィンクをして、カメラを自分に向けていた。

その間抜けなユーに、間抜けさを足した姿を見た私は、思わず聞いてしまう。

チト「何してるんだユー」

ユーは魚を口から外して、わかってないな、とでも言いたげな顔をして、ため息を吐いた。

ユーリ「こうやって食べてる自分を記録に残そうとしてるんだよ」


11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/08(金) 01:24:09.38 ID:dW68xNSs0

チト「いやそれはわかるんだけどさ。なんでそんなことする必要があるんだってこと」

ユーリ「....お腹空いた時にさ。あーこれ美味しかったなぁー、とか思ったり、この時の私はご飯食べてたなーって、記録見るたび思い出せば、お腹も膨れると思った。うん!そう思った!」

チト「今適当に考えただろ」

はい、とユーはそう言って私にカメラを押し付けてきた。

カメラ。カナザワの、カメラ。白くて板みたいなのに、使おうとすると中からレンズが飛び出してくる、器械。たくさんの記録が中には残っている。

カメラを渡してきたユーは、さっきと同じ様にレーションを口に咥えて、ウィンクをしている。

準備万端なユーの姿に、結局私が撮るのかと思うと、何だかムカついてしょうがないから、カメラをユーに押し返して。

チト「自分で撮れ」

そう言ってやると。ユーはカメラを起動してまた私に押し付けてきた。

ユーリ「えーだって撮れるわけないもん!ピント合わせるの大変だし、それに自分を自分で撮るなんてバカみたいじゃん!カメラは人を撮るためにあるんだよ!?」


12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/08(金) 01:25:25.66 ID:dW68xNSs0

チト「でもユーを撮って後で見返しても、私はお腹は膨れない。だったら撮る意味ないだろ」

押し返す。

ユーリ「じゃあちーちゃんも撮ればいいじゃん!」

押し付ける。

チト「あーもうめんどくさい!撮らないものは撮らない!」

そう大きな声で言いながら、カメラを押し返した。そして私は椅子に足を乗せた。

そして寒さを凌ぐために小さく縮こまる。私はレーションを食べた。

レーション。イシイが食糧生産施設の場所を教えくれたからできた、レーション。砂糖多めで幸せもたくさん詰まった、甘くて、しっとりとした、レーション。

もぐもぐ、もぐもぐ。

もぐもぐ、、、もぐもぐ、、、。

私は急に静かになった隣に、急に不安になった。

さすがに言いすぎたかな、と思いつつ視線だけをユーに向けた。

やっぱり、少し悲しそうな顔をしている。いたたまれない。

チト「....撮らないけど、ピントが合ってるかどうかは教えてやる」

灰色は虹色に。どんよりとした空模様は青色に変わり、青と赤の雲が流れていく。空虚から存在を塗りたくる。


13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/08(金) 01:26:13.47 ID:dW68xNSs0

ユーリ「やった!じゃあお願いねちーちゃん!」

カメラの画面を私に向けた。画面には、改めて口にレーションを咥えて、ウィンクをするユーがボケて映っている。

画面越し、それも表情も、何もかもぼやけてて見えないのに、ユーの笑顔が画面からは見えた。

少しずつ、絞りを回す。それに合わせては徐々にピントが合ってきて、被写体の像が明らかになってきた。

チト「ボケてないよ」

こんがり焼けてたのに、今ではしっとりとした魚のレーションを口に咥え、ウィンクをする、今日何度もみた、ユーのウィンクと笑顔がしっかりと映っている。

ユーリ「自分を撮る.....。自分撮り.....。自撮り....」

チト「略すな」

カシャ。

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15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/08(金) 11:33:19.23 ID:dW68xNSs0

ユーリ「てってんくらーと」

ざーざー。

チト「ケッテンクラート」

ざーざー。ぽた、ぽた。

ユーリ「ケッテンクラート....」

ざーざーぽたぽた。ざーざーぽたぽた。

チト「そう、ケッテンクラート」

ユーリ「てってんくらーと」

チト「一秒もたってないのに忘れるな」

ユーリ「いっつも思うんだけどさ、あれ、ずっと外に出しっぱだよね」

ざーざーぽたぽた、もぐもぐ。

チト「....そういえばそうだな」

ざーざー、ぽたぽた。もぐもぐ、もぐもぐ。

ユーリ「風邪ひいたりしないのかな?」

チト「しない」

雨脚が強くなってきた。ユーが言うには雪に変わるらしいけど、そんな絶対ありえないくらい降り続いている。それで私たちは相変わらず、ちびちびとレーションをかじっては、外を見つめる。

ユーリ「でもケガはするよね」

チト「してない」

ユーリ「壊れてるじゃん。たまに」

チト「....まぁ壊れてるな」

ざーざーぽたぽた、もぐもぐもぐもぐ。


16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/08(金) 11:34:08.86 ID:dW68xNSs0

ユーリ「ケッテンクラート、ここに運ぼうよ」

覚えてたのか。そう思ったけど、細かいことをいちいち気にしてたら、ユーの全てが気になってしまう。そこは流しておいて、私は最後の一口を口に放り込む。

チト「ここ、狭くて運べない」

二人とこの椅子だけでもう窮屈なここに、ケッテンクラートは運べない。

さすがに鈍感なユーも、それには気がついたみたいで、残念そうな顔をして、レーションをかじり続ける。

まぁでもユーの言うことは、よくわかる。いつも外に出しっぱなしだ。

私達もいつも外で寝てるようなもんだけど、ケッテンクラートと違って、雨ざらし、雪ざらしってわけじゃない。

かわいそうだな。素直にそう思った。

膝の上に置いていたカメラを椅子に置くと、ユーは不意に立ち上がった。

チト「....今度はなんだ」

ユーリ「ここに運べないなら、せめて....レーションだけでも食べさせてあげよう!」

雨に濡れてまで、ケッテンクラートにレーションを食べさせることを決意したのか、小さくガッツポーズをしたユーは、同意を求めるように、私を見た。


17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/08(金) 11:34:51.69 ID:dW68xNSs0

チト「どうやって」

ユーリ「ほら、燃料入れるところから」

チト「壊れるからやめろ」

ユーリ「ちーちゃんは血も涙もないの!?」

チト「いやケッテンクラートを殺そうとしてる方が血も涙もないぞ」

ユーリ「じゃあ私がケッテンクラートを同じものを食べる!」

どうしてそうなった。そう思った頃にはもう遅く、ユーは雨の中に向かって走っていった。

私も急いで立ち上がりユーの後を追いかける。

チト「おいレーションもったいないからやめろ!」

ユーリ「えーなんでー?もしかしたら、魚級に美味しくなるかもしれないんだよ?」

すぐにずぶ濡れになったユーは、燃料の入ったタンクを抱えて、こっちに戻ってきていた。

雨の中では食べないらしい。私は雨を遮るように手をかざして、そんな賢いユーにこう言った。


18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/08(金) 11:36:52.65 ID:dW68xNSs0

チト「お前ガソリンの味しらないだろ」

ユーリ「ちーちゃんは知ってるの?」

チト「修理中に何度か口に入ったからな」

ユーリ「レーションにつけて食べたことはないでしょ?」

チト「....結果は見えてるけど、まぁ勝手にしろ。あと残すなよ。もったいないから」

ユーリ「あい」

廃墟に戻ってすぐ、私はずぶ濡れになったコートを脱いだ。ユーはコートを脱ぐことよりも、燃料缶の蓋を開けようとしていた。

きゅぽん。

チト「ほんとのやるのか?」

ユーリ「もち。同じ釜の飯を食うってね~」

ふーん、ふふーん。ぽちゃ。

ユーはレーションを燃料の中に、躊躇いもなく突っ込んだ。そして数を数え始めた。そして五秒だった時、ユーはレーションを引っこ抜いて、珍しそうに上に持ち上げた。

ユーリ「なんかきらきらしてるー」

ぽたぽた。

チト「早く食え。垂れてる燃料が勿体無い」

ユーリ「いただきます!」

もぐもぐ。もぐもぐ。

チト「うまいか?」

もぐもぐ、もぐもぐ。ごくり。

ユーリ「うんまずい!」

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19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/08(金) 11:38:00.33 ID:dW68xNSs0

ケッテンクラート。私たちが塔を目指す時に渡された乗り物。ずっと一緒だ。でも遅い。

ユーは私にこう言った。なんの前触れもなく。振り続ける雨を見ながら。

物って死ぬの?

ざーざー。ぽたぽた、ぽたぽた。

チト「そりゃ死ぬだろ」

私たちだってそのうち死ぬ。どうやって死ぬのか知らないけど、死ぬ。

餓死、溺死、焼死、落下死、圧死。ありとあらゆる死に方が、私達には用意されている。

このどれかに当てはまらなくて、勝手に死ぬこともあるけど。今の私達に一番身近な死は、数えきれない。

ユーリ「じゃああの喋る器械も、そのうち?」

チト「うん。でも私達よりかは、長生きするだろうね」

私達よりは長生きする。物の死に方は、私達の死に方よりも、少ないし、何より物は頑丈だから。そのことをユーに教える。


20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/08(金) 11:39:03.73 ID:dW68xNSs0

ユーリ「じゃあケッテンクラートも?」

チト「ケッテンクラートも」

ユーリ「このレーションも?」

チト「レーションも」

ユーリ「この銃も?」

チト「銃も」

ユーリ「カナザワも?イシイも?」

チト「そうだな。みんなみんな」

みんなみんな。そのうち死ぬ。

ざー、ざー、、、。ぽたぽた、、、ぽた、ぽた。

ユーリ「じゃあ私達も?」

ざー、、、、、、ざー、、、、ざー、、、。

チト「....どうした急にしおらしくなって」

ユーリ「私たちってさ、物に生かされてるなって思って」

チト「物に生かされてる?」

ユーリ「そう、物に」


21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/08(金) 11:40:06.54 ID:dW68xNSs0

ユーリは起動したままのカメラをいじる。絞りのピントを意味もなく、合わせては、ぼかしたり。

ユーリ「私達の代わりにケッテンクラートは歩いて、私達の代わりに、レーションが犠牲になって私達を生かしてる。それに、私達の代わりにこの服が寒さを受けてる。頭だって、このヘルメットが代わりに守ってくれてる」

代わりに、代わりに。ユーリは私達の持ってる全ての物の名前を言う。

ユーリ「ちーちゃんはさ。物はそのうち死ぬって言ったよね。じゃあ、物が死んで、私達二人だけになっちゃったらさ。私たちって」

生きていけるのかな。

チト「........」

、、、、、、、、、、、、、。

チト「わからん」

ユーリ「そだね。わかんないね」


22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/08(金) 11:41:10.17 ID:dW68xNSs0

魚のレーション。青空の下、冷たい川辺で洗濯をした時の、あの魚を真似た、レーション。

カメラ。カナザワの、カメラ。白くて板みたいなのに、使おうとすると中からレンズが飛び出してくる、器械。たくさんの記録が中には残っている。

レーション。イシイが食糧生産施設の場所を教えくれたからできた、レーション。砂糖多めで幸せもたくさん詰まった、甘くて、しっとりとした、レーション。

ケッテンクラート。私たちが塔を目指す時に渡された乗り物。ずっと一緒だ。でも遅い。

私達は、物に生かされていた。でも私はこう思っていた。

私は、自分と、ユーの二人だけで生きていると。

困難も苦難も、辛い時も怖い時も、私はユーと二人で生きていたと。


23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/08(金) 11:42:55.57 ID:dW68xNSs0

いいや違う、物の元を辿れ。私たちがあてのない旅に出たのは、誰のおかげだ。ケッテンクラートを渡したおじいさんのおかげだ。

ふざけてカメラで遊んで、暇つぶしをできているのは、誰のおかげだ。カナザワのおかげだ。

こうしてレーションを食べて、生きていられるのは、誰のおかげだ。イシイのおかげだ。

そもそも、この旅の終着点はよくわからんけど、塔に向かう目標だって、私が決めたわけじゃない。

私達は、何も選択していない。色んな人に用意してもらった物と目的を使って旅をしている。

私達は、生きていない。本当だったら、もう死んでいるんだ。

チト「.....私たちってさ、よく生きてるよね」

ユーリ「そだね。運がいいのか悪いのか。まぁどっちでもいいや。それにちーちゃん言ったよね。物は私達よりも早く死なないって」

チト「そう言ったな....」


24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/08(金) 11:45:53.71 ID:dW68xNSs0

ユーは椅子に大きく腕を広げ、たくさん白い息を吐いた。

ユーリ「私達より後に死んじゃうなら、別に問題ないよね」

なんてユーらしい答えなんだ。そうだな。物はそうは簡単に死なない。私達より、後の死ぬ。

だから、ケッテンクラートが壊れて、私たちが歩くこともない。

カメラが壊れて、記録も記憶もなくなることはない。

レーションが底を尽きて、空腹に喘ぐこともない。

それは、私達よりも後に起こることだから。もしも前後が逆になることは、ない。そう思いたい。

そうなってしまったら。無防備で、生かされていた私達は、どうなるんだろう。その不安をユーに話した。するとユーは、いつもの調子でこう言うんだ。

ユーリ「その時は、また誰か助けてくれるでしょ」

チト「....誰も助けてくれなかったら?」

ユーリ「その時は!」

ユーは立ち上がって私の手を引いた。急にそんなことをされたら、私はバランスを崩して倒れそうになった。でも倒れない。

ぽたぽた。ぽたぽた。

ユーの笑顔。いつも通り。バカみたいに明るいその顔。

ユーリ「ちーちゃんが好きなあれだよあれ。片方が支えるあれ。ちーちゃんが倒れそうになったら、私が支える」

今度はユーはバランスを崩して私を引っ張る。ユーは私より全部がでかい。支えきれずにユーの上に倒れこむ。

ユーリ「私が倒れそうになったらちーちゃんが支える。どう!?かんぺきでしょ!」

チト「倒れてるんだけど」

ユーリ「まぁなんとかなるでしょ」

チト「またそれ....」

でもまぁ、あんまり考えることじゃない。それは遠い先の話だ。私はユーの柔らかい胸に顔を埋める。暖かい。

チト「でもまぁ、ユーの言う通りだな。倒れそうになったらどっちかが支える。そうすれば、私たち二人が終わるまで、終わらないよな」

ユーリ「そう!そんな感じ!」

たぶん終わる時は、ユーと一緒だろう。私は一人じゃ生きられない。ユーも同じだ。一人じゃ生きられない。

この世界を旅すると決めた時。この世界に生まれついた時から、私とユーは、一つの存在なんだから。

とくん、とくん、とくん、とくん。

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25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/08(金) 11:46:33.12 ID:dW68xNSs0

おしまいです。



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