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千早「私のもの」

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 00:43:51.02 ID:kglPL18b0

千早「……眠れない」


私は小さくそう呟く
既に深夜だった

いいえ、もうすぐ夜明けね


千早「……」


眠れないまま、ヘッドフォンを耳につけていた
お気に入りの楽曲が流れている

何度も聴いているけれど、すでに飽きたのだけど
それでもなお、音楽だけは聴いていた


2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 00:44:21.40 ID:kglPL18b0

千早「……そういえば、春香からメールがきてた気がするわ」

そっと携帯を取り出した
そこには、取り留めのない文章が書かれている

月明かりと、携帯の画面の光だけが部屋を照らしている
薄暗いけれど気にはしていなかった


千早「メール、返したほうがいいかしら……」


呟いてみてすぐに思いとどまる
夜明け前にメールなんて返しても仕方がないし、迷惑なだけだろう


3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 00:45:45.24 ID:kglPL18b0

千早「……また、メールを返せなかった」


業務連絡、用事などの内容であれば数時間後には返せたかもしれない
メールの内容は昨日のロードショーのこと

もう過ぎ去ってしまったことだし、そのとき私は唄の練習をしていたから見ていない


千早「……はぁ、どうして」


そこまで言ってからすぐに気づいた
最近、独り言が増えてしまったと


4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 00:47:28.31 ID:kglPL18b0

千早「ふふ……」


自嘲気味に笑いがこぼれた

最後に友人と呼ばれる存在がいたのはいつだろう
友人と遊んだり、他愛のない話をしたのはいつだろう

どうやら知らないうちに、私はとてもつまらない人間になったようだ

それが少し悲しくて、夜が明けたことに気付けなかった
私の知らないうちに月明かりが朝焼けに変わってしまった

どうしてか、その事が悲しくなった
そして眠ってしまった


5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 00:50:44.89 ID:kglPL18b0

事務所にはなんとか遅刻しないで済んだ

寝不足で遅刻なんてできない

少しの化粧でそれをごまかす
春香がやってきた


春香「千早ちゃん! おはよ!」

千早「おはよう春香」

春香「……あ、あれ? ひょっとして寝不足?」


6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 00:53:28.97 ID:kglPL18b0

千早「大丈夫よ、心配しないで」

春香「でも」

千早「いいから、ね?」


春香は誰とでも仲良くなれる
いいえ、仲良くなろうとしている

どうして判るかというと、春香は皆と仲が良いから
そして仲良くない私とすら仲良くしようとしているから


7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 00:55:48.33 ID:kglPL18b0

ここまで来たら判るだろう

私は人付き合いが苦手だ
いいえ、誰かと仲良くなるのが苦手なのだ
もっと正確に言うと仲良くなって好きになった人と別れるのが堪えられない

だからでしょうね
私は春香といっしょにいるのが少し怖いときがある


千早「じゃあ私はレッスンに行ってくるわ」

春香「あ、それなら私もいっしょに!」

千早「ごめんなさい。集中したいの」

春香「あ、うん、ごめんね?」

千早「いいえ、私のほうこそ」

春香「千早ちゃんもうすぐ新曲だもんね! がんばってね!」

千早「ええ、ありがとう春香」


8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 00:58:54.75 ID:kglPL18b0

春香から逃げるように事務所を飛び出した
途中で擦れ違う人とは会釈程度の挨拶だけをする

こんなのでアイドルだなんていう自分が可笑しいと思う

それでも幸いして唄だけは取り得があった
逆に言うと、本当の意味で唄しか私には残されていなかった


千早「……ごめんなさい」


私は誰に謝ったのだろう

冷たい態度を取ってしまった春香に対してだろうか
それとも先ほど擦れ違った他の仲間?
いいえ、もしかすると天国にいるであろう弟に対してなのかもしれない

とりあえずは判らないけど謝罪はしよう
ごめんなさい


9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 01:01:41.45 ID:kglPL18b0

レッスンをひたすらこなしている
無我夢中で
そうすると技術が上達する
上達した技術でファンを増やす

この方法でしか私はアイドルを続けられない


千早「もっと上手くならないと」


無意味な焦燥感だけが私を襲う
新譜をリリースする度に思う

私は果たして飽きられていないだろうかと


10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 01:04:34.86 ID:kglPL18b0

千早「もっと高みへ……トップアイドルへ」

見てくれも、踊りでも私は一番にはなれない
でも唄が私にはある

何度も言おう、私には唄しかないのだ


千早「ソロで、独りでも大丈夫……私は、唄があるから……」


ユニットは組めない
きっと私は、他のアイドルと相容れないと思うから

人と仲良くなるのが苦手で、劣等感ばかりあって、こんな恥ずかしいこと誰にも言えない


11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 01:07:23.59 ID:kglPL18b0

千早「お疲れ様でした」


それだけのやり取りで、トレーナーと別れる
事務所には一度帰らなければならない

一応、今日のレッスンの報告をする

その報告すら、最低限のやり取りだった
私はただひたすら、義務的に技術の向上を伝える
こんな私でも一応はアイドルだ、最低限の社会的交流はできる


ただそれでも、とにかく家に帰りたかった


12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 01:11:54.50 ID:kglPL18b0

千早「……ただいま」


私の日常はあっという間に過ぎている

さっきまで事務所だったと思えば、既に帰宅している
そういえば昨日の夜中からカーテンを開けっ放しにしていた

夕焼けが真っ直ぐ私を照らし出した


春香、落ち込んでいないといいのだけど……


そう思って気付いた、でも気付かないふりをした


13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 01:14:33.26 ID:kglPL18b0

そしていとも容易く全ては崩れ去った

そう、私よりも唄が上手い人がいたからだ
同じ事務所の年上

見てくれも、ダンスも、唄も、全てにおいて負けてしまった


千早「……ああ」


いいえ、技術の面では負けていないと思う
でも、負けてしまった


14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 01:17:01.80 ID:kglPL18b0

千早「……少し休みを頂きます」


それだけ事務所に伝えると、私はその場を去った

理由は簡単
唄えなくなったから

唄おうとすると、声が震えてしまうのだ

少し混乱しているだけ、ちょっと休めばまた大丈夫
そう簡単に思った、思いたかった

でも現実は違うと気付かされてしまった


15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 01:19:25.95 ID:kglPL18b0

眠れない夜が続いている

春香からのメールは増えている
春香以外の事務所の仲間からも連絡は届く

全てを、そっと閉まった


千早「……ふふ」


いつかの夜と同じように自嘲気味に笑いがこぼれた
あの日と違って、今回はもっと酷いけれど


16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 01:24:21.55 ID:kglPL18b0

私は鏡の前にいた
そういえば、鏡に写る自分に対して誰だと言うと大変になことになるらしい

そんな馬鹿げたことを思い出したのだ

別に自傷するつもりなどない
でも自分が一体どうしたいのか、それが知りたかった


千早「如月千早、あなたはどうしたいのかしら?」


もちろん返事なんて返ってこない


17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 01:29:47.93 ID:kglPL18b0

私は鏡から離れて、月を見上げた
そういえば、事務所に月を見るのが好きな人がいたわね

そこでもう一度だけ自分に問いかけてみた


千早「ねぇ、どうしたいのかしら?」


するとどうしてだろう
泣きそうになった

いいえ、涙がこぼれだした


18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 01:36:33.07 ID:kglPL18b0

千早「くっ……うぅ……」


嗚咽など出したくなかった
何度も必死になってかみ殺そうとした

けれども零れ落ちる涙といっしょに溢れ出す

ああ、どうしてだろう
気付いていたのに

自分の本音なんてとっくに気付いていたのに


20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 01:41:46.36 ID:kglPL18b0

あの夕日を見た日
春香の事を思い出したあの時

気付かないふりはもう無理

私は春香の声が聴きたいと思った
春香に謝りたいと思った


千早「……寂しい」


やっと本音が出せた


21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 01:45:07.87 ID:kglPL18b0

千早「ごめんね、春香……ごめんなさい、優……」


自分の性格を、弟のせいにしてしまった
そんな自分が春香を何度も傷付けてしまっただろう

この前だけじゃない

今までの全てを思い出してしまった
何がアイドルだ、本当にそのとおりだ


22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 01:49:30.63 ID:kglPL18b0

千早「……ああ、どうして」


夢を売るアイドルなのに
大切なことを忘れていた

夢なんて唄っていなかった
ちゃんと唄えていなかった

判ってる
私は春香が怖いんじゃなくて、眩しいだけ


千早「……もう、遅いのかしら」


24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 01:54:57.76 ID:kglPL18b0

春香のメールを読み直した
そこに書かれている内容は全部温かかった

学校ではいつも独りぼっちだった
毎日、嫌な目で見られていた

合唱部では嫌われてしまったし、団体行動もできない


千早「私……もう駄目なのかしら……」


そんなこと、とっくに気付いていた


25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 01:59:16.98 ID:kglPL18b0

千早「春香、あなたの声が聴きたい……」


そんなとき、携帯が鳴り出した
画面には天海春香

とっさに私は電話に出た


春香「え、えへへー! ごめんねこんな夜中に! えっと、えと!」

千早「……春香?」

春香「あ、あのね!! 千早ちゃん、私待ってるから!」

千早「え?」


26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 02:02:03.54 ID:kglPL18b0

春香「余計なお節介かもしれないけど、いっしょにアイドルしよう?」

千早「……でも」

春香「私知ってるよ? 千早ちゃん、本当はすごく寂しがり屋さんだもんね」

千早「え?」

春香「だっていつも皆のこと見てたの知ってるよ」


ああ、どういうことだろう
私の本音は、どうやら私以外の人がよく知っていたみたいだ


27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 02:02:50.99 ID:kglPL18b0

千早「ありがとう春香」

春香「あ、ごめんね! こんな夜中に!」

千早「ふふ、大丈夫よ? 明日は行くつもりだから、そのときはよろしくお願い」

春香「うん! じゃあまた明日、おやすみなさい!」


そっと電話のボタンを押した
それから嗚咽を垂れ流して泣いた

このことは生涯秘密にするつもり、恥ずかしいもの






何でもない、誰も知らない些細な日常
でも大事なもの、私のもの

今、私は皆といっしょに夢を唄っています


end


31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/21(日) 02:10:23.70 ID:kglPL18b0

読んでくれた人ありがとうございます
暇があれば 美希「こんな終わり方ってないの!!」 も読んでくれると嬉しいです

原作は、”Title of mine”でした。でわ



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